第49章 Divortium-君のための嘘-
ユーゴーは少女の持つ赤い髪に目を奪われた。
「赤い髪…」
小さく呟いた言葉は少女に聞こえていた。バズビーとの言い合いを中断し、ギロリと鋭い眼光でユーゴーを睨みつける。
「あたしの髪がそんなに珍しいわけ?」
「……………」
「不愉快だわ」
すぐに“違う”と否定できなかった。
「(だって…目を奪われるほど“綺麗”だと思ったんだ。)」
「どうせあんたも気味悪いって思ってんでしょ」
その金の瞳は哀しみと憎しみが混じっている。
「だーかーらー!オメーの髪の色なんて別に珍しくもねーって言ってんだろ!」
「あんたには聞いてない」
「何だとォ!?」
ふんっと鼻を鳴らして顔を背ける。
「俺の髪だって赤いだろうが!」
「あんたの髪と一緒にしないで!」
「何も変わんねーだろ!」
再び言い合いを始めた二人。
「(薔薇のような赤──。)」
余りにもじっと見すぎたのか、少女は突き刺さる視線に鬱陶しさを感じ、その綺麗な顔が怒りで歪められる。
「何よ」
「別に何も…」
「さっきからジロジロ見て不快だわ。言いたいことがあるなら言いなさいよ」
「じゃあ…言うけど」
ユーゴーはハッキリと言った。
「その気の強い性格、どうにかならないの?」
「何ですって…?」
「あと怒りっぽい」
「喧嘩売ってるなら買うわよ」
「きみが言いたいことがあるなら言えって言ったんじゃないか」
ユーゴーは溜息を吐く。
「別にぼく、きみのこと気味悪いとか思ってない」
「……………」
「ただ、きみの名前が知りたいと思って」
「は?」
「ねぇ、きみの名前は?」
ユーゴーは未だに此方を睨んでいる少女の名前を尋ねた。
何故かはわからない。
でも、知りたいと思った。
彼女のことを───。
「…詩調」
「!」
「一色詩調よ」
真っ直ぐにユーゴーを見た。答えてくれたことに嬉しくなったユーゴーに自然と笑みが浮かぶ。
「ぼくはユーグラム。ユーグラム・ハッシュヴァルト。バズからは“ユーゴー”って呼ばれてる」
それが二人の出会いだった────。
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