第49章 Divortium-君のための嘘-
「ガキの頃の話をいつまでも覚えてんじゃねーよ。俺が手を繋いだのはテメェらに迷子になられても迷惑だと思ったからだ。心配して繋いだんじゃねえよ」
「なら…探検に行く時にいつも虚が出たら守ってやるって言うのは何でだ?」
「弱いお前らが目の前で虚に殺されたら胸糞悪いからに決まってんだろ。ま、食い殺されても俺は良かったんだけどな」
「そうだな。お前は虚からあたし達を守るようにいつも一番前を歩いてくれたな」
「…さっきから何が言いてえ?」
「お前だって本当は気付いてるんだろ?」
「はぁ?何に気付くってんだよ」
「今まであたし達が無事でいられたのは、お互いがお互いを守っていたからだ。それは…あたし達が揃えば最強で、どんな敵も恐れをなして逃げたからだ。あたしはそれを幼馴染の絆が生んだ強さだと思ってる」
千歳の言葉にポカンとしていると、不意に後ろから軽く肩を叩かれた感覚がした。
「………っ、」
振り向いた伏見の視界に映ったのは、愛おしげに自分を見つめて微笑む母親───千咲の姿だった。
「──ババア…」
どこか困ったように笑んだ千咲を見て、彼女が何を伝えようとしてるのか感じ取った伏見は、眉を下げ、顔を伏せたまま黙り込んだ。
それを見た千咲は“もう大丈夫”と言った顔で笑み、光の粒となって消えた。
「…お前らとの絆なんて…うんざりだ」
「!」
「殺したいって思うのに…鬱陶しくて邪魔だって思うのに…クソ…ふざけんな…」
半笑いを見せながら伏見は伏せた顔に手を遣る。
「何でこんなに…あったけえんだよ」
泣きそうな声で悔しげに呟いた。そして顔を上げて二人を見る。
「またお前らと一緒なんて…迷惑だ」
「「!」」
「バァーカ。」
憎まれ口を叩きながら伏見は切なげに笑み、光の粒となって消えた。
「あたしも行く」
「うん」
千歳はニコリと笑うと伏見の後を追うように光の粒となって消えていった。
「願わくば…世界が平穏を取り戻し、彼女達に幸せが訪れん事を───。」
空を見上げる。
「ありがとう」
それは誰に向けた言葉か。
今では少女しか知り得ない。
そして少女は光に包まれて箱庭世界から消えた…。
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