第49章 Divortium-君のための嘘-
「伏見、自分の生き方を変えるつもりはないか?」
「ねえ。何度も同じ事言わせんな」
「…そうか。なら、仕方ないな」
千歳は悲しげに呟いた。
伏見に背を向け、少女を見る。
「すまない」
その一言で全てを悟った少女は柔らかげに笑み、目を閉じて小さくかぶりを振った。
「“彼女”の最後を見届けたかったけど…あの子なら大丈夫。『保険(私)』が失くても…あの子はもう暴走はしない。だから…キミを信じる」
「ありがとう」
どこか申し訳なさそうに、力なく笑い、千歳は伏見に向き直る。
「あたしは───お前達を壊す。」
「何…するつもりだ…」
「この日の為にあたしは複雑に組み込まれた術式を何年も研究してきた。何度も失敗して、また一から術式を組み直した。そして…ようやく完成したんだ」
巨大な斧を頭上高く持ち上げる。
「これが…“終わりの魔法”だ!!」
振り下ろした斧が地面に当たると、辺りが光で覆われた。光が覆う中、キラキラした粒が降り注がれる。
「(光の雨…。なんて…温かいんだろう。)」
手を翳してみると、光の粒が掌に落ち、吸い込まれていく。
「おい千歳!テメェ一体何しやがった!!」
「言っただろう。“全てを終わりにさせる”って」
「ふざけんじゃねえ!!とっとと魔法を止めろ!!」
「この魔法は一度発動させると解除できない」
「だったら俺がぶっ壊…」
「…やっと、だ…」
「!」
「これでお前達をあの日の呪縛から解放してやれる」
千歳はどこか安心したような笑みで小さく呟き、その瞳には僅かに涙が浮かんでいる。
「あたし達は前に進まなきゃ。あの日から止まったままのあたし達の時間を進めよう。そうすればきっと自分の足で歩いていける」
伏見の顔が強張る。
「ね?……伏見。」
千歳は子供の頃のような笑みを浮かべた。
「“あの頃に還ろう”」
伏見の目に今の二人と幼い頃の千歳と梨央の姿が重なって見えた。大きく目を見開いたまま、言葉を失う。
「蒼生を残して消えるのは心苦しいが…これからあいつはあいつの未来を歩む。一足先に行って待ってるとするか」
千歳は名残惜しそうに笑った。
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