第48章 Aurum-名も亡き人形-
「さてと…雅、キミは自分の眼は綺麗なものを汚すから前髪を伸ばしているんだと言ったな」
「…言ったけど」
「今すぐ切れ」
「は?」
「そこに落ちてる聖兎の短剣で前髪を切れ」
「な、何で…?」
雅は戸惑って梨央を見る。
「…僕の眼に綺麗なものを入れると君達が汚れる」
「うるさい。これは命令だ。
今すぐその伸びた前髪を切れ」
断固として雅の話を聞き入れない。
「聞こえなかったのか雅。前髪を切れと言った。
これは“隊長命令”だ」
「!」
時々強引な彼女に雅は小さく息を吐く。
「“隊長命令”なら仕方ないか」
その口許は微かに嬉しそうに笑っていた。
近くに落ちていた短剣を一つ拾って刃を前髪に当てる。
少しずつ髪の一本一本が切られ床に落ちる。
「うん、やっぱり」
切り終わって露わになる雅の両眼。
その瞳を見て梨央はニコリと笑う。
「綺麗な黄金色だ」
「こんな色…僕に似合わないよ」
「そうかな。すごく綺麗じゃないか。
私は好きだよ。光の色みたいでさ」
「!光の色…?」
「綺麗なものを汚すんじゃなくて、綺麗なものだから汚いものを汚させないんだ。キミのその光にも似た黄金色の瞳は。」
「(“汚いものを汚させない”…)」
「それと…だ」
ガッ
「っ……!!」
梨央は雅の頬を殴った。
雅の口の端からは血が出ている。
「手加減はしてない。
自業自得だからな」
殴られた箇所がズキズキと痛む。
「まず第一にキミに言いたいのは…“ふざけるな”だ」
「!」
「私がキミを捨てる?キミに失望する?ふざけるな。私はキミと出会ってから一度もキミを役立たずと思ったことも失望したこともない」
「……………」
「いいか雅。この際だからハッキリ言わせてもらう。たとえキミがあの男の支配下にいようが、あの男の仲間だろうが関係ない」
「!」
「私が憎んでいるのはユーハバッハだ。あの男と繋がりがあるキミを憎む理由はない。恨みなんてない。だから騙したとか思うな。こんなの騙した内に入らないし気にしていない」
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