第48章 Aurum-名も亡き人形-
「…それでお前は捨てられたのか?」
「うん。屋敷を追い出された僕に行く場所は無かったよ。何日も歩き続けて、お腹の音が鳴り止まなくて、空腹を満たす為に盗みも働いた。お金なんて無いし人から盗むことで生き延びてたんだ」
雅は蒼生の肩越しに空を眺める。
「道でぶつかった相手に殴られて蹴られて散々だったな…。その時に思ったんだ。“こんな理不尽な世界は消えて無くなればいい”って…」
「!」
「死に場所を求めて彷徨ってた時に陛下と出会ったんだ」
『貴様を死なせるには惜しい』
『どうだ、私の為に役に立ってはくれないか』
『私の世界を創るのに貴様が必要なのだ』
『これから貴様は私の為に生き、私の為に死ね。
私の役に立つ事以外で死ぬ事は許さん』
悪魔の誘いだと思った
でも救いの手だと思った
僕は陛下の役に立ちたいと思ったんだ
『共に世界を創ろう』
例えそれが“間違っていること”だとしても…。
僕は陛下の為に生き
陛下の為に死ぬ
それが恩返しだと思った
もう 見捨てられなくない
役に立って必要とされたい
僕を…独りにしないで─────。
「そして僕は陛下から“名も亡き人形”と云う名を与えられた。それまで僕に名前が無かったんだ。孤児院でも番号で呼ばれてた。名前なんて…意味が無いと思ってた。でも陛下がくれたこの名だけは大事にするって決めたんだ」
「“流祇流雅”が本当の名前じゃなかったのか…」
「ああそれは…パッと思いついたんだ」
雅はどこか力なく笑う。
「零番隊を結成した時、顔合わせで自己紹介をした時があったでしょ?僕にはちゃんとした名前なんて無いしどうしたらいいかと思って…そしたら“流祇流雅”って名前が頭に浮かんだ」
「何で言ってくれなかった…」
「失望させると思った」
「…するわけねえだろ」
「うん、君はそう言うと思った」
困ったように笑う。
「僕はね、蒼生。君達が僕と出会う前から、僕は君達のことを知ってたんだ」
「どういうことだ?」
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