第48章 Aurum-名も亡き人形-
「どういうつもりだてめえ…!!」
「………………」
「何でお前が“そっち側”にいる!!」
激しく問い詰めるが先程から雅は蒼生の声が届いていないのか、気力が抜けたように茫然としている。
「こっち見やがれ!!」
ダンッ
「うぐ…っ!」
胸ぐらを掴んだまま、蒼生は雅を床に押し倒す。
背中を打った衝撃で呻き声を漏らす雅。
訳が解らず混乱する蒼生の表情が焦りを含んでいる。
「ふざけんじゃねえよ…何の冗談だこれは…。
おい雅…答えやがれ」
怒りで震える手で蒼生は問いかけた。
「てめえが…“名も亡き人形”なのか?」
「………………」
自身の正体を問い詰められ、雅は蒼生に目を向け、悲しそうに笑った。
「うん、そうだよ」
「っ………」
「“名も亡き人形”は僕。僕が名も亡き人形。
びっくりした?」
「…騙してたのか」
「そうなるね」
「裏切ってたのか」
「…そうなるね」
雅を掴んだ胸ぐらに力が入る。
「僕は君達を騙してた」
「……………」
「裏切ってた」
「それは…あの男の為か」
「うん」
「役に立つ為か」
「うん」
どこか切ない声で言葉を返す。
「僕はね…本当の両親を知らずに育ったんだ」
「!」
「孤児院で暮らして…気付いたら何処かのお金持ちの家で使用人として働いてた」
突然、雅が自分の生い立ちを話し始める。
「薄汚い服を着てた僕に当主みたいな人が新しい服を用意してくれたんだ。それまでは同じ服を毎日着てたよ。驚いたなぁ…僕があんな着飾った服を着るなんてさ」
まるで他人事のように言葉を吐く。
「孤児院にいた頃は少ししか分け与えられなかった食事も、その日から豪華な物になって戸惑ったっけ…。ナイフとフォークなんて初めて使ったよ」
雅はどこか自嘲めいた笑いを溢す。
「その人は僕にとても優しかった。
でも…人を見る目じゃなかったな」
「!」
「ある日、僕は窓拭きの掃除を任されたんだ。でも慣れない僕は汲んできた水を誤って床にぶち撒けてしまった。そしたらその人は凄く怒って僕を殴った後、何時間も家畜小屋に閉じ込めた」
「………………」
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