第48章 Aurum-名も亡き人形-
「なら何であんな男の言いなりになってんだよ」
「恩があるからだ」
「恩?」
「陛下のお役に立つ為に自分の与えられた役目を遂行する。この身を拾って頂いたその日から…この命は陛下の為に有る」
「…くだらねえ」
「何?」
「あの男の役に立つことがあいつへの恩返しなのか?それって少し違うんじゃねえの?」
「どういう意味だ」
「“陛下の為に”誰かを傷付ける。“陛下の為に”人を殺す。そういうのマジでうぜぇ。俺、大嫌いなんだよ。その“誰かの為に”ってやつ」
蒼生はまるで自分を責めているかのような口ぶりで顔をしかめた。
「あいつの目的知ってんだろ。“全ての人間を死の恐怖から解放する”。その為に蒼月の里を襲い、俺達の母親まで殺した。そんなクソみてえな最低野郎の役に立ちたいって時点で…テメェも大概クソ野郎だよ」
「……………」
「俺達は絶対に諦めねえ。必ずあの男をぶっ倒して目的を阻止する。そしてあいつも返してもらう」
「仲間が…そんなに大事か」
「当たり前だろうが。俺達は六人で零番隊だ。誰か一人欠けても駄目なんだよ」
「何でそうまでして…」
「仲間ってのは互いを信じ、支え合う存在だ。俺は妹の為に戦い抜いたあいつらを誇りに思う。仲間って…すげえだろ?」
「……………」
「ま、お前には分かんねえだろうがな」
そう言って蒼生は刀を引き抜く。
「俺の大嫌いな言葉を言うぜ」
冷めた眼で蒼生は名も亡き人形を見遣る。
「“妹の為に”俺はテメェを殺す…!!」
地を蹴って走り出す蒼生。
「…“仲間”か」
顔を俯かせて名も亡き人形は呟く。
脱力したように体の力が抜け、戦闘態勢を解く。刀を構える蒼生は名も亡き人形に向けて刃を振り下ろす。
「…信じない」
「!」
当たる寸前で刀がピタッと止まる。
「仲間なんて信じない」
フードで顔は隠れて見ることはできないが、名も亡き人形はとても悲しげに声を漏らした。
「仲間だと呼べるのは最初だけだ。役に立たないと知った途端、何の期待もしなくなるに決まってる」
普段の堅苦しい口調が崩れる。
「仲間って…そういうものだから」
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