第48章 Aurum-名も亡き人形-
「本当…ズルイな。彼の名前を出すなんて…」
切なげに笑う。
「決心が揺らぐじゃないか」
立ち上がって側に落ちていた刀を拾う。
「日番谷隊長…」
泣きそうな声で愛しい人の名を呼んだ。
「大丈夫、彼らならきっと未来を変えられる」
梨央は空を見上げる。
「そして“彼”の未来もきっと───……」
柔らかげに微笑んだ。
◇◆◇
激しい攻防戦が続いている。
両手に短剣を構える少女、聖兎。
目の前には刀を持つ名も亡き人形。
適度な距離を保ちつつ、緊迫した面持ちで聖兎は叫ぶ。
「答えて下さい!貴方は何者ですか!」
「……………」
「貴方の目的は何ですか!!」
「言ったはずだ。お前達を始末することが陛下から下された命だからだ」
「その陛下が“殺せ”と言ったら、貴方は無関係の人達まで殺すのですか!!」
「陛下の命令は絶対だ」
名も亡き人形は一瞬で間合いを詰めると、聖兎に向けて刀を振り下ろした。
ガキィン!!
聖兎は短剣を交差させて振り下ろされた刀を防ぎ止める。
「では貴方はあんな小さな子供にも刃を向けるのですか!?」
少し離れた場所でお互いを抱きしめ、恐怖で体が震えている丙と壬。その閉じられた目からは涙が溢れ、耳から聞こえてくる争う音に二人は更なる恐怖を植え付けられる。
「あるじ…あるじぃ…」
「あ、あおい…ひっく…」
そして二人は寝る前にいつも梨央が歌ってくれる子守唄を歌い始めた。
「…『小鳥が運ぶ天使の果実』」
「『揺り籠に揺られて夢の中』」
「『小鳥の愛に包まれながら』」
「『幸せの歌で眠りについた』」
「『小鳥の大事な二つの果実』」
「『愛のぬくもりでおはようのキスを』」
「『光の世界で小鳥は歌う』」
「『大事な二つの果実を抱えて』」
「『天使は幸せに眠りについた』」
決して上手いとは言えない双子の子守唄。それでも気を紛らわす為に大きな声で歌った。
「私はお嬢様から仰せつかっています。必ず二人を護るようにと!ですから貴方のような人を傷付けることに何の罪悪感も感じない方に敗けるわけにはいきません!!」
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