第47章 Volo-千の時を越えて-
「───陛下の御力はこれから起こる全てを見通し知ることのできる力。そして陛下が知られた力で陛下を倒す事はできない」
ハッシュヴァルトは雨竜に語る。
「その文字は“A”、御力の名は───『全知全能(ジ・オールマイティ)』」
陛下は
平時“眼”を瞑じて
戦っておられた
敵を軽んじて
そうされていた訳ではない
封じられし滅却師の王は
900年を経て
鼓動を取り戻し
90年を経て
理知を取り戻し
9年を経て
力を取り戻す
「その“力の9年”が終わらぬ内に眼を開けば、陛下の“A”の力は制御を失い、我々星十字騎士団の力を奪い尽くしてしまうかも知れなかったからだ」
だが
我々の為に
眼を瞑じておられた陛下が
今 眼を開かれた
それは
“力の9年”が終わったということ
それこそが陛下の真の力
「我々の千年に渡る祈りがようやく報われる時が来たのだ」
◇◆◇
敵を迎え討てず、冷たくなった亡骸だけが其処にある。流れた血は乾き、床に血跡を残す。
手から放れた刀は無造作に床に転がっている。
遠くで殺伐とした戦いが繰り広げられている中、ゆっくりと身を起こす人物がいた。
「……………」
意識が覚醒せず、虚な眼で一点を見つめるが、刃の鋭い音を聞いて眼に生気が宿る。そして周囲を見渡した。
「!?」
既に息絶えた仲間の姿に瞠目する。
「……………」
胸に手を遣るとリジェに空けられた穴が塞がっていた。その人物は悲しげに目を伏せる。
「…俺だけが生きてる」
眉を下げて呟く。
「…これでいい」
自嘲するような薄笑いを浮かべる。
ザワッ
「!」
微かに乱れた霊圧に気付き、蒼生は空を上を見上げる。
「卍解したのか…────」
蒼生は立ち上がり、梨央の加勢に向かおうとするが…
「待て…何で“今まで気付かなかった”?」
もう一度、仲間の亡骸を見る。
「あの馬鹿、どこに行った…!?」
そこに雅の姿はない。
「いつからだ…いつからアイツはいなかった…?」
混乱する頭で考える。
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