第47章 Volo-千の時を越えて-
「…ほんと参るよ。霊王宮には立ち入る、霊王の眷属たる零番隊の体にも立ち入る。そして…私の大事なものをまた奪っていく」
人形のように動かない仲間を悲しい眼で見つめる。
「人間風情が不届きも大概にしろ」
鋭い眼光がユーハバッハを突き刺す。殺気を感じたユーハバッハが剣を構えたのを…梨央は見逃さなかった。
「!!」
突然ユーハバッハの前に瞬歩で現れると、驚きの行動に出る。
「何…!?」
グサッと鈍い音が聞こえた。梨央の体からあり得ない物が飛び出ている。
「貴様…何をしている!」
珍しく焦るユーハバッハ。奴の持つ剣は梨央の腹部を貫いていた。
梨央は苦しげにニヤリと笑い、ユーハバッハの体を押し返す。その反動で剣が体から抜け、大量の血が床にボタボタと落ちる。
「ハァ…ハァ…」
「血迷ったか…」
「血迷う…?違うな…“これ”が発動条件だ。私の…卍解を使う…な」
「何だと…?」
「───……卍解……」
血溜まりの出来た跡が大きく広がる。
「『天照大御神血染羽』」
その瞬間、一切の“音”が消えた。
「!」
ユーハバッハは自分の手を見る。
「(震えている…?)」
その手は無意識に震えていた。
ズッ…
「!」
音が無い世界に“音”が一つ聞こえた。それは不気味な音だった。その音は近くで聞こえた。そう…彼女が流した血溜まりの中から───。
「(何だ…この妙な気持ち悪さは。)」
ユーハバッハは警戒心を張り巡らせ、大きく広がった血溜まりの中をじっと見つめる。
ぺちゃ…。
血溜まりの中から黒い足のようなモノが蠢いた。一本かと思いきや、数本の足がグニャグニャと動き回り、その姿が露わになる。
「!!」
その姿は悍ましかった。得体の知れない化物なのは確かだ。けれどその存在自体が異質だった。
闇色にも似た“それ”には人間のような体が無い。巨大な黒い塊に足が触手のように無数に生えている。そして不気味なオーラを纏っていた。
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