第46章 Zero-零を受け継ぐ者たち-
「────……」
詩調は先程と同じように無数の氷の刃をワイゾルの周りに出現させて放つ。
「らからぁ」
ピタッ
「無駄らって言ってるらろー」
やはり氷の刃はワイゾルに当たらない。
「オイの聖文字は“W”。“紆余曲折”のニャンゾル・ワイゾル。オイの見つけた“敵”はじぇんぶぐんにゃり曲がってオイの体を避けて通る」
詩調は表情をしかめる。
「らから、あっちの茶髪の派手な兄ちゃんのお湯も当たらない。武器も当たらない。あんたらの刀も一本らって当たらないんら」
「…そういう事っスか…」
「…成程。
口を滑らせたわね、クソ餓鬼」
今度は沢山の氷の刃を作り出す。
そして一斉に発射された。
「“見つけた敵は全部”って言ったわね。じゃあ見つけられない敵なら曲げられないという事」
「よく言われるんらよ。
オイはいつも言葉も舌も足りてねえって」
「いや舌は足り過ぎでしょ」
「つーか出し過ぎだし」
琉生と詩調は思わずツッコんだ。
「“見つけた敵”は“本能で見つけた敵”。見えてなくても敵らろ。ろこからろう攻めてきても」
ワイゾルの指先が固い筈の氷に触れると紙の様にぐにゃりと曲がる。
まるでこの男に触れられたくないと訴えているかのように。
「オイの体を避けて通る」
そして氷の刃は粉々に砕け散った。
「言葉足らずでゴメンらろ」
粉砕した氷の粒が光に反射してキラキラと輝き、ワイゾルの着ている白装束に降りかかる。
「気に病まなくてもいいわ。言葉が足りないのは仕方ないもの。ところで…“見えない敵”が氷の刃のことだってあたしが言ったかしら?」
「!?」
「敵とはより近く、より肌身に触れるものほど見えないもの」
詩調はニコリと笑う。
「あんたの肌身を覆うその衣、あんたが氷の刃と戯れてる間にあたしの力で創り直してあげたわ」
衣に零番隊の隊花でもある秋桜の印が浮かび上がる。
「ああそれと…」
「!」
「さっきあんたが砕いた氷の刃だけどね…服に欠片が付いてるのに払い落としもしなかったわね?」
「どういう意味ら?」
「血に染まる氷の彫刻になるといいわ」
顔は笑っているが目は完全に冷えていた。
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