第45章 Neglecti-気づかないふり-
「……………」
《梨央サン?》
「浦原、一つ訊く」
《何スか?》
「キミは私が最低な奴に見えるか」
《!》
「“血も涙も無い冷徹な奴に見えるか”」
《…いいえ。貴女は優しい人です。
昔からずっと…。》
「そうか…彼のこと任せたよ」
《わかりました。》
通話を切って梨央は青空を見上げた。
◇◆◇
白装束を纏った雨竜が巨大な扉の前で立ち止まる。
「何用だ」
雨竜が来ることを読んでいたのか、ハッシュヴァルトは壁に背を預けて待ち伏せしていた。
「ユーハバッハ陛下は御寝になられている。陛下は眠られている間だけ滅却師の父へと戻られ、力を蓄えられる。御寝を妨げる事は負かりならぬ」
「───そうですか」
「何用だと問うた筈だが」
鋭い眼光が深く突き刺さる。
「陛下への用件を貴方に伝えなければならない理由が?…それに貴方も随分、昼間と様子が違うみたいだ」
「…私と陛下は天秤の両翼。陛下が“滅却師の父”へと戻られる間、私には“支配者の仮面”が預けられる。私と陛下は繋がっている。…いや陛下は全ての滅却師と繋がっておられる」
静かな沈黙が漂う。
「…お前には話しておいてもいいだろう。
次期後継者たるお前には」
陛下は幼き頃から 周囲の人々に
魂を分け与える力を持っていた
滅却師は皆
周囲の霊子を集めることで
自らの力とする能力を持っているが
その中で陛下ただ一人だけが
その真逆の力
“魂を分け与える力”を持っていたのだ
幼き頃は触れることで
魂を分け与えていたが
やがて更に強力な方法を
発見するに至った
相手の魂に能力を冠した“文字”を
直接刻みつける事によって
より深く強く力を持った魂を
分け与えたのだ
「魂を直接刻みつける…?
そんな事をどうやって…」
「お前は“既に刻まれているぞ”。陛下の血杯を仰いだだろう。陛下の一部を身体へと取り込む。それこそが刻印の儀式だ」
その言葉に雨竜は目を見開いた。
ダンッ!
壁に手を付け、雨竜に顔を近付けるハッシュヴァルト。
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