第45章 Neglecti-気づかないふり-
「───その歌には続きがある。封じられし滅却師の王は900年を経て鼓動を取り戻し、90年を経て理知を取り戻し、9年を経て力を取り戻し───9日間を以て世界を取り戻す」
変わり果てた尸魂界を見下ろすユーハバッハ。
「ゆくぞ。雨竜、ハッシュヴァルト、名も亡き人形。世界が終わる9日間だ」
◇◆◇
【蒼月の里】
「お嬢様、戦闘の準備が整いました」
使用人が深く頭を下げる。
「ご苦労」
短い返事を返す少女。
「後の事は任せたぞ」
「……………」
「心配するな」
「!」
「きっと上手くいく」
「───はい。」
夕陽色の髪を二つ結びにした少女は儚げに微笑む。
その瞳は悲しそうだが強い意志が宿っている。
「お前には感謝している」
「もったいなきお言葉です」
「…これからは好きに生きろ」
「いいえ」
使用人は頭を振る。
「ここでお嬢様の帰りを待ちます」
「………………」
「ですから…必ず帰って来て下さいませ」
優しい眼差しで見つめる。
「またあの頃のように…四人で一緒に帰って来て下さいませ」
「!」
「ずっとお待ちしております」
その言葉に少女は一瞬、悲しい表情を見せたが、すぐにフッと笑って腰に携帯している刀の柄に触れる。
「行ってくる」
「お気をつけて」
凛と胸を張る少女に使用人は頭を下げて見送った。
その眼は少しだけ泣きそうだった。
少女は振り返ることなく、夕陽色の髪を揺らして戦場へと赴いて行った。
◇◆◇
【常闇殿】
「恋次くんに本当の卍解の名前教えたし、ルキアも卍解を修得した。朽木隊長の容態も心配なし…だから後はキミを送るだけだ」
そう言って後ろを振り返る。
「そっちの準備はできてるんだろうね?」
「おう!」
元気よく返事をする一護は辺りをキョロキョロと見回す。
「なに探してるの?」
「アレは?
おまえらが来る時に乗ってた柱みたいな乗り物」
「ないよ、帰りは徒歩だ」
「はあ!?」
「楽しちゃダメだよいっちー。
少しは歩きなさいな」
梨央の手が床に触れると長い階段が現れる。
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