第45章 Neglecti-気づかないふり-
「あんたが…梨央の母親を殺したのか?」
「!!」
その問いかけに斬月は目を伏せ、黙り込む。
「答えてくれよ…本当にあんたが…」
「そうだ」
「!」
「私が彼奴等の母を殺した」
真っ直ぐに向けられた眼差しに一護は分かっていても唖然とした。驚きっぱなしの一護の表情は強張り、斬月を見つめたままだ。
「邪魔だったのだ。私の前に阻む障害をこの手で排除した。そして私は罪禍の力を奪った」
「!!?」
「この力は普段は制御が難しくて使う事はないが…奴も母親と同じ力を受け継いでいる」
“奴”───それがすぐに梨央のことだと一護は分かった。
「返してやってくれ」
「………………」
「それはあいつらの母親の力なんだろ。それをあんたが無理やり奪って手に入れた力なんだろ。だったら…」
「それは出来ない」
「!」
「これは運命なのだ」
「運命…?」
「“こうなる事は最初から決まっていた”」
「どういう意味だよ」
「私が罪禍から力を奪って殺した事は運命で決まっていた。そして…“私が復讐者となったあの女を殺す事も運命で決まっている”。今更その運命を歪める事は不可能だ」
一護は大きく目を見開いた。
「運命から逃れられる事は出来ない。私は奴を殺す。そして奴も母親を殺された復讐として必ず私を殺すだろう。それが───運命というものだ」
「………………」
「一護、絶望に囚われるな」
「!」
「お前の友人が悲しむ」
「(梨央────…)」
どこか辛そうな、悲しそうな眼を宿す。
「お前を死神にしてはならぬ、死神となれば殺さねばならぬ────そう思っていた」
斬月は揺らめく剣を握り締める。
「だがお前は死神への道を歩んでいった。きっかけと出会い、力を鍛え上げ、傷つき苦しみながら自らの意志で歩んでいった。その姿を見るたびに私の心は音を立てて揺らいだのだ。
やがて私の心はお前を死神から遠ざけるよりも、お前の意志を助ける方へと傾いていった。そして私は今こうして身を引ける事に喜びさえ感じている」
「!」
「一護、お前は強くなった」
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