第42章 Tandem-最期の言葉-
『動けぬだろう?』
『…何をした。』
『私は貴様から身体の自由を奪った。貴様の母、罪禍の力を使ってな』
『!?母様の力…?』
『“あらゆる能力(力)を無効化し、あらゆるものを奪う”。それが貴様の母の力だ』
耳を疑った。もし今のが罪禍の力だとすれば、何故この男が母と同じ力を使えるのかと。混乱する頭で必死に考えた。
『…“奪ったな”』
そしてすぐに“答え”にたどり着く。
『お前…母様から力を奪って自分のモノにしたな?』
質問の答えの代わりに、ユーハバッハは厭らしい笑みを浮かべた。
『殺しただけでは飽き足らず…力まで奪った。そんなに“目的”とやらが大事か。憎き滅却師め。私はお前達を心の底から嫌悪する!』
隙を見て逃げ出そうとするが、罪禍の力に阻まれ、指先すら動かせない。その焦りから、梨央は苛立ちを募らせる。
『目的は必ず遂行する。あの女は言っていた。“お前達の誰かが私の目的を阻止し、世界を守る”と』
“どうせ無理に決まってる”
そう言っているかのように聞こえた。
『その言葉を愉しみにしているぞ』
小馬鹿にしたように嗤い、ユーハバッハは大剣を手に構えた。瞬時に理解した。今からこの男は自分を…と。
『…必ずお前を止めてみせる。例え私が世界から消えても…彼が必ず、お前の目的を阻止する。だから…その頸を長くして待っていろ』
ピンチの状況にも関わらず、梨央はニヤリと笑う。その自信に満ちた表情を無言で見下ろしていたユーハバッハは大剣を頭上高く上げた。
『貴様の未来は既に見ている。だから───……』
その続きは聞こえなかった。けど…何故か嗤っていた気がした。
何の反撃も抵抗も出来ないまま、死を覚悟した梨央は、そっと…瞼を閉じる。
『(ごめん…蒼生…───)』
大切な人の顔を脳裏に思い浮かべ、謝罪の気持ちを心の中で唱える。
そして大剣は振り下ろされ、梨央の意識はそこでブツリと途絶えた──……。
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