第42章 Tandem-最期の言葉-
新任の儀が成立した数ヶ月後のある日、花瓶に生ける為の花を切らしていたことに気付いた梨央は里を出たすぐの森で、良さそうな花を探していた。
『この時期だと…霜紅花がたくさん咲いているな』
林檎のような形をした花が周辺に咲いている。梨央はそれを優しく折って摘み始めた。
『玄関と寝室…談話室と…それから…』
ザワッ
『!!』
何者かの気配を感じ取り、咄嗟に後ろを振り返った。その先にいたのは…忘れもしない男の顔だった。
『お前は……』
『久しいな』
『っ──!!』
護身用に持ち歩いている小刀を取り出し、ユーハバッハに突きつける。
『何故此処にいる。この里には手を出さない約束だっただろ』
『ほぉ…見た目も中身も随分とあの女に似てきたものだ。口調すら変わったか。』
『質問に答えろ』
『確認しに来たのだ』
『確認…?』
『貴様の中で私への憎しみが消えていないかの確認だ』
『…安心しろ』
握る手にグッと力がこもる。
『一日たりとも、お前への憎しみを忘れた日はない。むしろ時間を重ねる度に殺したい気持ちが強まっている』
母親と似た顔でユーハバッハを睨んだ。
『お前が壊したんだ。幸せだった私達の世界を。己の私欲の為に里を襲い、母様達を殺した。……お前さえいなければ。そうだ…お前さえこの世界から消えれば…』
うわ言の様に呟いた梨央の瞳は暗い色を宿している。
『全部お前のせいだ。全ての元凶はお前だ。あの時言ったな。“憎ければ殺しに来い”と。……望み通り───今此処で殺してやる!!!』
地を蹴り、ユーハバッハに向かって走り出す梨央を見て、どこか失望したような眼差しを向ける。
『死に急ぐところは…あの女と同じか』
感情が制御し切れず、目の前の憎い相手に手にした小刀を勢いよく振り下ろす。
ドサッ
『……?……?』
だが…気付いた時には、梨央の身体は地面に伏せるようにして倒れていた。
『!?』
何が起きたのか理解できず、目を見開いたまま、混乱した。何とかして立ち上がろうと力を入れるも、身体が地面に縫い付けられているかのように動かない。
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