第42章 Tandem-最期の言葉-
世界が闇に覆われてしまった様な空間で、梨央は目を覚ます。
『此処は…?』
瞼は開いている筈なのに視界は何も捉えない。辺りを見回すも、永遠に視界に映るのは…どこまでも深い、闇だった…。
『(あぁ…そうか、私は…)』
やけに頭の中がスッキリしていた。それ故に考える余裕がある。梨央は自分が何故この場にいるのかを思い出した。
『死んだんだった───』
口に出して改めて自分がユーハバッハの手で殺されたことを認識するが、悲しさは無かった。
『…困ったな。何も告げずに彼を残して死んでしまった。…………。また…心配させるな』
眉を下げ、切なげに笑む。
『あの世界に独りぼっちにさせてしまう。私のいない世界を…兄は生きることになる。…私なら、耐えられないな』
蒼生のいない世界を生きることは地獄で生きているのと同じことだ。大切な人が傍にいない。もう顔を見ることも声を聞くことも、会うことすら永遠に叶わない。
『…怒るだろうな。勝手にいなくなるなって。傍にいるって…約束してくれたのに』
首から下げていた指輪を取り出す。自分の誕生日に初めて蒼生がくれたものだ。その指輪を眺めていると…何故か涙が溢れた。
『っ…ごめん…ごめんね…』
掌に包み込んだ指輪を額に押し当てる。
『死ぬのは怖くなかったのに…蒼生に会えないことが…怖いよ…』
元々泣き虫な性格の梨央。海を閉じ込めた青い瞳からはまるで真珠が溢れるように綺麗な涙が流れ落ちる。
『(あの人を…独りにさせてしまう。)』
罪禍が死んで、更に妹も死んでしまった。その報せを聞いた蒼生がどんな顔をするのか、梨央には想像ができた。
『(“判断”を間違えたのかもしれない…)』
怒りで我を忘れ、勝てるはずもない武器一つ握って、滅却師の始祖を殺す気でいた。“殺せる”と心のどこかで思っていたのかも知れない。
選択肢はいくつかあった筈なのに。
彼女は、“正解”を間違えた───。
『お兄ちゃん…』
その時だった…。
《──復讐したくないか?》
『!』
ピタリ。泣いていた彼女は涙を止め、無表情で突然聞こえてきた“聲”を睨むと警戒心を張り巡らせた。
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