第42章 Tandem-最期の言葉-
それを見た梨央は頭の中が真っ赤になった。激しい憎しみと悲しみ、色んな感情が、彼女の中で───爆発した…。
『っそれ以上母様を傷付けるなあああああ!!!!!』
叫んだ瞬間、何かに斬られたかのようにユーハバッハの身体から突然、血が噴き出た。
『!?』
ブシュッと噴き出た血はボタボタと地面に落ち、大きな血溜まりを作る。ユーハバッハもそれに驚いて目を見開く。
『陛下!!』
仲間の一人が慌てたように叫ぶ。だが怒りで興奮が収まらない梨央は荒い呼吸を繰り返したまま、強い憎しみの眼差しを滅却師に向ける。
『此処から出て行け…!!これ以上まだ母様を傷付けるなら私がお前を殺してやる…!!!』
今にも殺しそうな勢いの梨央を蒼生が押さえ込む。
『梨央!!落ち着け!!』
『出てって!!此処から出てってよぉぉぉ…っ!!!』
『陛下、すぐに傷の手当てを…』
『撤退する』
『し、しかし…』
『これ以上此処に居れば、再び怒りに満ちたあの少女の巻き添えを喰らう。良いな。』
『…はっ、承知致しました。』
仲間達はユーハバッハに向け、頭を下げる。
『ある意味、邪魔者は排除した。我が子を護って死ねるなら母親として本望だろう。』
既に死した三人にユーハバッハの言葉は届かない。そして涙を流したまま、此方を睨みつける梨央に視線を移す。
『命拾いしたな。無力な自分が憎いか?最愛の母を殺した私が憎いか?』
『………………』
『貴様達の母親は殺される運命だったと受け入れろ。人は生まれながらに運命という楔に囚われている。無論、貴様達にもそれぞれ運命が有る。どんな運命を辿るかは貴様達で確かめろ』
そしてユーハバッハはバサッとマントを翻し、梨央達に背を向ける。
『憎ければ殺しに来い』
そう一言だけ言い残し、仲間達を引き連れ、蒼月の里から撤退して行った。
彼らが去った後もしばらくは動けず、生気を失ったように放心する梨央達。ただ『其処』に無残に転がる亡骸を…泣き腫らした目で、じっと見つめている。
そして…『思い出』を見せられた“彼女”も…。
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