第42章 Tandem-最期の言葉-
『“あの子”がこの部屋に連れて来られる前から。ずっと此処に居た。だけど…誰も気付いてくれなかった…』
『(そんなに前からこの部屋に潜んでいただと?馬鹿な…姿すら気配として消していたと云うわけか?)』
『………………』
『(不気味じゃな…何を考えておるのか読み取れぬ。少しでも何らかの反応を示してくれれば。それこそ…殺気を放ってくれれば…)』
柊は警戒心を張り巡らせる。
『(此奴をただの子供と侮って掛かれば危険じゃな…)』
『あの子は…どうして泣いていたの?』
『!あの子、とは?』
『蒼目の女の子…。ずっと泣いてたから…』
『あの子は今、恐怖と不安とで混乱しておる。お主らがそれを与えたんじゃよ、あの子に』
『?どうして…?別にあの子には危害を加えて傷つけたりしてないのに…どうして泣くの?』
『…お主、泣いた事は?』
『泣くって…何?』
『!』
『どうしたら泣けるの…?』
『悲しい時、痛い時、苦しい時、辛い時、嬉しい時。人はその感情に合わせて泣くんじゃよ』
『…よく、わからない。あの子は…悲しいから泣いてたの?痛いから?苦しいから?辛いから?それとも…嬉しいから?』
『あの子は嬉しくて泣いたんじゃない。例えあの子に直接危害を加えていないとしても…あの子の心が傷ついておるのじゃ』
『?…心が?』
『身体の傷は治せても、心の傷は簡単には治らんのじゃよ』
『ふーん…。じゃあ簡単に壊れちゃうんだ、あの子』
声に変化はないが、その子供がフードの下で笑ったような気がした…。
『して…お主の役目は何じゃ?』
『お前に恨みはない。だけどあの方のご指示で“いらないもの”を排除しに来た』
幼き少年は──その手に剣を取った。
『お主のような子供が儂を殺せるとでも?こう見えて儂は元軍人じゃぞ。ただの老いぼれと侮っておると…痛い目を見るぞ、小僧。』
『……………』
『やれやれ…これは随分と無口なヤツじゃな。戦うのならせめて殺気を放て。お主からは殺気も闘志も何も感じん』
それでも少年は何も言わない。
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