第42章 Tandem-最期の言葉-
『アイツを知ってるの?』
『…あぁ』
男は再び弓を構える。そして冷淡な眼で此方を睨む三人に向けて言った。
『我が名はユーハバッハ。滅却師の始祖にして、今から貴様達を殺す王の名だ──。』
『『『!!』』』
ニヤリと卑しく嗤えば、光の矢が数本出現し、三人に向けて発射させた──。
◇◆◇
ドォン!!
『っ!』
窓の外から時折聞こえる激しい音にビクッと体を震わせ、耳を塞ぐ梨央。
『(怖い…怖いよ、母様…!)』
じわりと涙を浮かべ、キュッと口を結ぶ。
『(泣いたらダメ!母様は“こわいおおかみ”を倒しに行ったんだから!私が泣いたらダメなの!)』
ドォン!!
『Σひぅ!?』
耳を塞いでも聞こえてしまう音に、ついに涙を堪えられなくなった。
『うぇ…うぅ〜…ひっく…』
ポロポロと涙し、ネックレスを握りしめた手で目を拭おうとしても次から次へとどんどん溢れ落ち、泣き出してしまう。
『うぅ〜…かあさまぁ…!』
どんなに呼んでも罪禍は来ないのを知っている。それでも求めるように母親の名を呼ぶ。
その時だった。
部屋の外から足音が聞こえ、梨央はピタリと泣くのをやめる。
『(だ…誰か来る…!?)』
ぐしっと乱暴に涙を拭い、指輪を握りしめたまま立ち上がり、慌ててクローゼットの奥に身を隠し、息を押し殺す。
『(母様…)』
祈るように指輪をギュッと両手で包み込み、口元に当て、目を閉じる。恐怖と緊張で身体が震え、足音が過ぎ去るのをじっと待つ。
『(誰か…お兄ちゃん…!!)』
ガチャ…
『!!』
静かに扉が開く音が聞こえ、更に緊張が高まる。
『っ………』
ドクン ドクン ドクン
『(お願い…早く出てって!)』
部屋の中を探すような足音が段々と近くなる。その足音はやがてクローゼットの前で消えた。
『(いや…助けて…蒼生──!!)』
恐怖と不安と緊張が混ざり合って、おかしくなりそうだった。
『梨央?』
『!』
声が聞こえた。大好きな人の優しい声が。助けに来てくれたのだ。彼女の、ヒーローが。
ぐちゃぐちゃだった感情が、一気に吹き飛んだ───。
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