第42章 Tandem-最期の言葉-
ドォン!!
攻撃が自邸を襲う。激しい揺れに咄嗟に近くの窓に手をつき、衝撃に堪えた。
「(覚悟を決めろ…呑まれるな。)」
そして記憶(おもいで)は再現される。
『母様!待って…!』
「!」
振り返れば、険しい表情で幼い我が子の手を引いて歩く緑髪の女性がいた。名は罪禍。仁科家当主にして、梨央と蒼生の実母である。
「…母様」
今は亡き母親の姿に目を見開き、驚愕する。罪禍は子供部屋に幼い梨央を強引に押入れ、扉が開かないようにドアノブを手で押さえる。
『母様!此処を開けて!』
『梨央、この扉は絶対に開けるな』
突然連れて来られ閉じ込められた梨央は何がなんだか分からず、扉を叩くも罪禍に部屋から出るなとキツく注意され、益々混乱した。
『どうして開けちゃダメなの…?』
『危険だからだ』
『危険?さっきの地震?』
“そうだ”と告げた罪禍の言葉に納得が出来ず、自分も一緒に行くと泣き始める。
『お前を連れては行けないんだ』
『やだ!一緒に行く!母様と一緒に行くの!私を独りにしないで!置いて行かないでよぉ〜!』
困り果てた罪禍はなるべく怖がらせないように言葉を選び、梨央に言う。
『この里に怖い狼が来たんだ』
『こわい…おおかみ…?』
『そうだ。お腹を空かせた狼の群れが蒼月に餌がないか探しに来たんだ。だから母様は悪さをする狼を倒しに行かなきゃならない』
『…その狼さんは母様が倒さないと蒼生も蓮杜も千歳もパクって食べちゃう?』
その例えに思わず笑いそうになる。罪禍は微笑み、優しげな表情で告げる。
『そうだな。絵本で読み聞かせただろう?狼は人を食べちゃうんだ』
『じゃあ母様はおばあさんを助ける赤ずきんちゃん?』
『助けるのはおばあさんじゃないが…お前達を護る赤ずきんだ』
梨央はキラキラとした眼差しで興奮気味に言った。
『あのね!赤ずきんの他にもね!“りょーし”がいるの!武器はないけど赤ずきんを守るよ!』
赤ずきんの他に猟師も登場する。梨央はその役を買って出て赤ずきんである罪禍を守りに一緒に着いて行くという意味なのだろう。
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