第42章 Tandem-最期の言葉-
子供の頃
母が話してくれたことがある
『“記憶映しの洞窟”?』
『あぁ、彼処だけは絶対に入るな』
『どうして?』
『危険だからだ』
『むー!それじゃわかんないよー!』
厳しくも優しい母親の膝で甘える梨央とその隣で大人しく絵本を読んでいる蒼生。説明が足りないとぷんすこ怒る梨央に困り顔で母親は言った。
『その名の通り記憶を視せるんだ。その本人にとって一番辛い…悲しい記憶をな』
『一番辛くて悲しい記憶…?』
『中には絶望に耐えられず精神が壊れる者もいる。だから母様達はお前達にあの洞窟には入るなと昔からキツく言っているんだ』
『…なんか…怖いね』
隣にいる蒼生の寝間着をギュッと掴む。チラリと見遣ったが、蒼生は気にする事なく、再び絵本に目を向ける。
『お前達は何があっても母様が守る。お前達を傷付ける者、悲しませる者、泣かせる者から守ってやるから安心しろ』
『母様…』
『母様は強い、そうだろ?』
『うん!母様は強くて優しい!』
『そうかそうか。お前達は本当に愛らしい。私の宝物。お前達がずっと笑顔でいられる世界を、私は守ろう』
二人の頭に手を乗せ、和らげに微笑む。
『私だって母様を守るよ!だからね、母様、ずぅーっと傍にいてね!大きくなったら母様のお手伝いする!母様が大変な時は私が変わってあげるの!』
『梨央…』
『母さん、泣いてるの?』
『泣くはずないだろう。お前達の母は強いから涙など流さん。だが…少しウルっとしてしまった』
『母様泣かないで!私達がいるよ!』
ふと笑んだ母親は梨央と蒼生を引き寄せ、抱きしめる。
『あぁ、私にはお前達がいる。
愛してるよ…私の可愛い天使達───。』
その眼には微かに涙ぐんでいた。
『さて…もう寝る時間だ。
絵本を読んでやるからベッドにおいで』
『はーい!』
梨央は元気よく返事をした。蒼生は読んでいた絵本を閉じて長椅子から下りると梨央に手を差し出す。
『ほら』
パァッと笑顔になり、膝から下りた梨央は嬉しそうに手を繋ぎ、蒼生と共にベッドに向かう。それを見た母親は慈愛に満ちた表情で微笑んだ。
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