第42章 Tandem-最期の言葉-
外部流魂街90地区
貴族の為に造られた里
名を───【蒼月】。
「地盤が緩んでたのか…酷い有様だ」
「結界を破る程の衝撃だったからな」
「それにしても…少し離れたこの里にまで被害が出ているなんて…」
「さっき管理棟に連絡したら住人達の避難は済んでるらしい」
「じゃあ双子と彼女も…」
「いや、あいつは屋敷を守るのが責務だと思ってるからな。お前の命令がなきゃ意地でも動かねえよ」
「…急ごう」
里に到着した二人は目を疑った。里を守るように囲う瓦礫の壁は崩壊を凌いだものの、強力な結界が大地震によって破られた為、里は滅茶苦茶に破壊されていた。
根元から折られた木々は倒され、建物のほとんどが崩れ落ち、地面には亀裂が入り、酷い有様だった。
そんな中、空に昇る蒼い月だけは、崩壊する前と変わらず、美しい輝きを放っている。
当時の当主達が里を建てた際に突如として空に現れたのが、百年以上経った今でも輝きを失わず在る。不思議なことに、天候など関係なく、一日中こうして空に昇っている。
今では蒼月の里の象徴だ。
そんな里には三つの家柄が存在している。
攻撃力に優れた───伏見家。
防御力に優れた───夕凪家。
その二つの力に優れた───仁科家。
上級貴族よりも遥かに身分が高く
“最高貴族”として有名───だったのは、もう昔の話である。
蒼月の里は地図上には存在せず、最高貴族の存在すら人々の記憶から消されていた。
だからこそ、梨央達にとっては都合が良かった。あの日に起こった悲劇を…誰も知らないのだから───。
「双子はいるか!!」
屋敷の扉を乱暴に開ければ、エントランスホールの中央で誰かが座り込んでいた。顔を真っ青にし、恐怖からか、涙を流している。
「聖兎…!!」
濃いピンク色の髪に片目を包帯で覆った、メイド服姿の少女は駆け寄る梨央の呼びかけにも反応せず、ただ一点を見つめたまま、放心している。
「しっかりしろ!!」
「気に“あてられてんな”」
聖兎の肩に手を置き、揺さぶる。
「聖兎!!!」
「っ……!!?」
びくん!!っと反応した聖兎の瞳に色が宿る。
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