第41章 Equiti-見えざる帝国-
「なんて奴なの…!」
「あの人ならやりかねないね」
「じゃあ涅隊長は十二番隊士を動員して魂魄均衝矯正の為に流魂街の民衆二万八千人を無許可で抹殺したってこと?」
「そうなるな」
「うわぁ…まじで最低っスわ」
「とりあえずこの件は総隊長に任せよう。私達は戦の準備に備えて賊軍が奇襲して来る日まで待機だ」
「……………」
「みっくん?」
「!」
「どうしたの?」
元気のない雅を見て、霙は心配そうに言う。
「…今回の戦では…どれほどの血が流れて…どれほどの犠牲者が出るんだろうって考えると怖いんだ」
その身体は微かに震えている。
「雅クン…」
それでも雅は力なく笑う。
「頭ではちゃんと理解してるつもりではいるんだ。死神になって、戦士として戦うと覚悟を決めた以上は…頑張るつもり。でも…それでも…人を斬るのはどうしても気が進まないというか…」
雅は仲間の誰よりも人を傷付ける事を嫌う。本来彼は、争いや戦争というものを好まない。それは自分自身の手で誰かを傷つけてしまうかも知れないという恐怖があるからだ。けれど逆に言えば、物事に対して敏感で、戦に於いて冷静な判断が出来、人の痛みや苦しみを理解できる、心優しい少年なのだ。
それは仲間が一番良く理解っている。
「みっくんは優しいね!」
「僕が優しい…?」
すると雅は自分を嘲笑う様に自虐的になる。
「ただの臆病者だよ。僕は弱い。だから戦士としても向いてないんだ」
「もおー!みっくん!めっ!」
「鬼灯さん?」
ぷくーっと頬を膨らます霙は、人差し指を雅の顔に突きつけた。
「ネガティヴモード撲滅!」
「そうよ流祇流。あんたが争いを嫌うのは知ってる。でもあんたが勇気を出して戦わないと誰かが傷ついて、死ぬかも知れないのよ」
「一色さん…」
「それが嫌ならその刀に『優しさ』を乗せて戦いなさい!」
詩調の言葉に雅は瞠目する。それを聞いて梨央がふと笑みを浮かべた。
「きっと身体はボロボロになるだろう。だが心だけは決して折られるな」
「!」
「心を折られてしまえば敵の術中に落ち、戻れなくなる。光を失えば…誰の声も届かなくなる」
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