第41章 Equiti-見えざる帝国-
「何故キミが此処にいる───伏見。」
札の耳飾りを揺らし、ゆっくりと振り返った少年の顔は──人を見下す様に嗤っていた。
子供の頃のような無邪気な彼の面影はどこにもない。今彼女の前にいる少年は…顔立ちは整っているが、その嗤い方が癪に障り、澄んでいた瞳は、蔑みと冷徹さを帯びている。
「よォ、久しぶりだなァ」
梨央は眉を吊り上げ、怖い顔で伏見をじっと見ている。それを見て可笑しそうに嗤う伏見。二人の間に重々しい、殺伐とした空気が流れ始めた。
「元気だったかァ?」
ニヤァ…っと口許を歪め、用意されていたかのような台詞を吐く。それすらも梨央の勘に障った。
「まだ死んでなかったんだな」
「テメェもな」
「生きてるとも思ってなかったが」
「俺ァてっきり『自殺』でもしてんじゃねえかと思ってたぜ」
「…………………」
「ま、生きてんなら問題ねーわ」
その言葉に違和感を感じたが敢えてスルーし、別の話題に切り替える。
「其処から離れろ」
花壇の側にいる伏見にキツく言う。
「この花、幸福花だろ?」
「だったら何だ」
冷たい瞳を宿した伏見は、向けていた花から梨央に視線を移す。
「植えたのテメェか?」
「キミの質問に答える義務はない」
「こんなの育てたって無駄だろ。すぐに枯れちまう。何でかって?テメェにこの花は似合わねーからだよ」
「………………」
「俺達の幸せはあの日に全て壊れた。そうだろ?なのに何でこんな邪魔なもん、育ててんだよ」
急に笑みを消し、無になった伏見。梨央は警戒心を解かず、常に背中の刀に意識を集中させていた。いつでもすぐに抜けるように。
「俺達の幸せは二度と戻らねえ。こんなの咲いたって、幸せになれるわけねーだろ」
忌々しそうに伏見が顔をしかめる。今にでも握りつぶしそうな勢いだ。
「キミこそ私が声を掛けるまで随分と熱心に幸福花を眺めていたな。どうした、懐かしい記憶でもフラッシュバックしたか?」
鼻で笑い飛ばし、嫌味たらしく言う。
「バァーカ、引っこ抜いてやろうと思ったんだよ。ついでに花壇も壊してテメェの悔しがる顔でも拝んでやろうかと思ってな」
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