第41章 Equiti-見えざる帝国-
「………………」
ゆっくりと瞼を持ち上げると、見慣れた天井が視界に映る。綺麗な青の瞳はどこか虚で、梨央は布団に仰向けのまま、天井に向けて手を伸ばす。
「みんな…笑ってたな…」
掌をグッと握り締め、上体を起こし、悲しい色を瞳に宿す。
「巳の刻…」
時計を見れば9時を回っていた。
「やばい…寝過ごした」
伝令神機を確認すると案の定、お怒りのメールが5件ほど受信されている。開かずとも解る。これは…
「うわー…雅からだよぉ〜…」
サァーと顔を青ざめる。蒼生からだと思ったのが甘かった。5件全て、雅からだったのだ。用件は同じ文章。【まだ寝てるの?】それだけなのだが…そのメール全てに圧を感じる。
「起きてますとも。今起きましたとも。決して寝坊などではございません。……そんな言い訳、彼に通用しないのは私が一番良く分かってる」
きっと彼は普通に聞いているのだ。だが雅の性格を知っているからこそ、梨央は背筋をぶるっと震わせる。
「えー…うわーマジかー。これは怒ってる。本人が怒ってないと言っても、滲み出てるんだよな。黒いオーラみたいなのが…全身から」
頭をガシガシと掻き乱し、盛大に溜息を吐き捨てた。これも夢のせいだと自分に言い聞かせ、布団から出て、すぐに着替える。
「何で今頃になってあんな夢…」
何故かイライラした。その原因が分からず、更に苛立ちは増す。思わず舌打ちをする。
「冷静に…冷静に…」
大きく息を吸って、吐き出した。
「よし、今日も頑張りますか」
自分に喝を入れ、仲間の待つ隊舎へと向かう。そして案の定、穏やかな微笑みに対して目が笑っていない(と思われる)雅の説教(注意)を受けるのであった。
◇◆◇
一通りの仕事を片付け、休憩がてら、やちると共に植えた花の様子を見に行く。
「!」
そこに人影が立っている。黒髪に、札の様な耳飾りを付けた少年だ。
驚いて目を見開き、立ち止まる。すると黒髪の少年は綺麗な色を咲かせた一輪の花に触れようと手を伸ばす。
「──触るな。」
「!」
ドスを利かせた低音声に伸ばした手がピタリと止まる。梨央は背を向けたまま動かない少年に対して言葉を投げた。
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