第3章 書類配りI
「その前に冴島さんに謝罪はしたの?」
「…してませんよ」
「無抵抗の彼女を傷つけておいて、それでよく護廷に顔が出せるものね?」
「副隊長。その話は聞き飽きました。貴女は黙って執務室から卯ノ花隊長を呼んで来てくれればいいんです」
「っなんなのその態度は!!」
「何を怒っているのですか?」
「彼女がどんなに怯えたか分かる!?」
「…………」
「女性の身体に傷を付けるなんて最低よ!!」
「傷は彼女が自分で付けたんです」
「嘘に決まってるわ!!」
「(ハァ…面倒だな。)」
「刺し所が悪ければ死んでたのよ!?」
「あぁそうですか。でも死ななくて良かったですね。ほんと悪運が強い」
「悪運…ですって?」
「ま、急所を外して自分で刺したんだから死なないのは当たり前か」
どうでも良さそうに呟けば、勇音の怒りがふつふつと湧き上がる。
「で?卯ノ花隊長はまだですか?」
「あなたは人の命を何だと思ってるのよ…ッ!!」
ガチャ
「一体何の騒ぎです勇音。貴女の怒鳴り声が執務室にまで響いていますよ」
「卯ノ花隊長…!」
「やっぱりいた」
「あら、神崎さん」
流歌は軽く頭を下げる。
「書類を届けに来たんですね。ご苦労様です、どうぞ中にお入りください」
「隊長!!」
「いいんです。さぁ行きましょう神崎さん」
悔しがる勇音の横を通り過ぎ、卯ノ花と共に執務室に入った。
扉が閉まると卯ノ花はこちらを振り向き、流歌に微笑みかける。
「思ったよりも元気そうですね───梨央さん」
「やっぱりお見通しでしたか…」
「ふふ」
昔と変わらない穏やかな笑みで卯ノ花は流歌を見る。
「心配しましたよ」
「すみません」
「砕蜂隊長にはお会いしましたか?」
「先ほど二番隊に。凄く心配されました」
「彼女は貴女の事を気に掛けていましたから」
二人は窓から見える空を見上げる。
「あれから百年です」
「そうですね」
「永かったです」
「どうですか?久々の護廷は?」
「彼らがいた時の方が楽しかったですね」
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