第3章 書類配りI
「過去は戻らない。それは分かっているのですが…やはり少し寂しいですね」
「貴女は頑張りましたよ」
卯ノ花の言葉に悲しみの色を瞳に宿し、流歌は首を振る。
「何も頑張れてないです。だって…救えるはずの命を見殺しにしてしまったんですから。私がもう少し早く奴らの企みに気付けていれば…」
「梨央さんのせいではありません。ですからそんなに自分を責めないでください」
「…あの男は嘲笑ってたんです。まんまと罠に掛かった私を。この手で救えなかった…彼らを…守れなかった」
ギュッと拳を握りしめる。
「後悔してますか?」
「後悔ですか…」
「彼らの命を救えなかった事を」
「そうですね…後悔してます。あんな小細工に騙されなければ私は彼らを救えた。でも…見事に騙されてしまった」
「……………」
「あの男の目的は二つあった。その一つが…私を彼処に閉じ込める事だった。奴は私が嫌いですからね。本当に…忌々しい」
「今は仲間達と過ごせていますか?」
「最近は朝食を一緒に取ってます」
「そうですか。私も零番隊が復活できる日を祈っていますよ」
「ありがとうございます」
「さて…書類を届けに来てくれたんでしたね」
「はい。判子をお願いします」
「わかりました」
卯ノ花は書類に目を通すと判を押し、流歌に渡した。
「気をつけてくださいね、梨央さん」
「!」
「冴島桃香は頭の回転が早い人です。それと怪我をした時は必ず四番隊に来てください。私は貴女の味方なんですから」
「ありがとうございます。それと…」
「?」
「霙のこと、よろしくお願いします」
「はい」
頭を下げると流歌は執務室を出て行った。
「……………」
流歌が出て行った後、卯ノ花は彼女の言葉を思い出していた。
“救えるはずの命を見殺しにしてしまったんですから”
「だから貴女は罪を認めたんですね」
悲しい顔を浮かべた卯ノ花は静かに目を閉じた…。
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