第3章 書類配りI
【四番隊舎】
「失礼します」
「梨央ちゃ…」
「ごほん。」
わざとらしい咳払いをすれば、両手を広げて駆け寄ろうとした霙はピタリと止まる。
「鬼灯十三席…?」
「はわわわわっ!?」
ニコリと黒い笑みを浮かべると慌てた霙が咄嗟に口を両手で押さえる。
「今何を言おうとしたんです…?」
「な、何も言ってにゃい!」
まずいと思ったのか、霙は全力で首を横に振った。
「男装姿も似合ってるね〜!」
「霙、少し離れた方がいい」
「え?何で?」
「そこで何をしてるの鬼灯十三席」
「虎徹副隊長…」
「そんな人と喋ってないで自分の仕事に戻りなさい」
「“そんな人”…?」
霙はムッと顔をしかめる。
「今の言葉、どういう意味?」
「言葉通りよ。彼は冴島さんを刺した殺人者だわ。近付くと貴女まで刺されるわよ」
「違うもん!!」
「!」
突然大きな声で怒った霙に勇音は驚いた。
自分の隊長を悪く言われて悔しい霙は勇音に反論する。
「何も知らないのにこの人を悪者にするのはやめてよ!!何も見てないくせにこの人を侮辱するのはやめて!!」
決定的な証拠もないのに流歌を犯人だと決めつける勇音に強い憤りを感じる。
霙は怖いのだ。
桃香を殺した犯人として流歌が四十六室の査問に呼ばれないか。不当な理由で判決が下されれば、監獄に閉じ込められるかも知れない。
百年前にも似たようなことがあった。
だからこそ怖いのだ。
流歌がまた、自分達の前からいなくなるかもと考えるだけで身体が震える。
「この人は…!!」
「鬼灯十三席は仕事に戻ってください」
「!」
流歌が立ち去るように目配せすると霙は悔しそうに唇を噛み、仕事に戻って行った。
「何の用かしら?」
「卯ノ花隊長に書類を届けに来ました」
「隊長はいないわ」
「どうして嘘を吐くんですか」
「嘘じゃないわ」
「いいえ、嘘です」
「何でそう言い切れるの?」
「だって副隊長、今執務室から出て来たじゃないですか」
「それは……」
「卯ノ花隊長を呼んでください」
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