第3章 書類配りI
「隊舎に戻る前に臭いを落とせ」
流歌はそれ以上の追求はやめた。
「それと“私情後”は詩調に近寄るなよ。彼女はそういう臭いを本気で嫌がる」
「うん…わかってる」
「キミの過去に踏み込むつもりはないが…」
琉生は流歌を見る。
「道理を外れるな」
「!」
「自分から堕ちるな」
「心配してくれるんスか?」
「キミを引き戻すのは大変なんだよ。だから堕ちても自力で正しい道に戻れ」
「梨央チャンが引っ張ってよ」
「…………」
「もしオレが道理を外れて誤った道に進んだら…梨央チャンがオレの手を引いて正しい道に連れてって」
「堕ちた時はな。それ以外は助けない。女絡みで堕ちたら問答無用で見捨てる」
「(と言いつつ絶対に助けてくれるんスよね。)」
「でも簡単には堕ちてくれるな」
「心に留めておくっス」
「じゃあもう行くよ」
そう言って歩き出す流歌の後ろ姿を見送る琉生。
「…………」
一人その場に残された琉生は悲しそうに目線を地面に向けた。
「(零番隊舎でシャワー浴びてから戻ろ。)」
「御ー影ー君♪」
「(げっ。)」
踵を返せば、目の前に桃香がニコニコと笑って立っていた。琉生はげんなりと顔をしかめるがすぐに笑みを浮かべる。
「冴島サンじゃないっスか」
「こうして御影君とお話しするの初めてだねぇ❤︎桃香のこと知ってる?」
「もちろんスよ。冴島サンは護廷のお姫様じゃないスか」
“全然興味ないけど”と心の中で否定した。
「えへへ〜。御影君って背高いしイケメンだねぇー❤︎」
「どうもっス」
「ところで…今流歌君と話してたよね?」
「(最悪な場面見られた。)」
「何話してたの?桃香にも教えて❤︎」
「別に大した話じゃないっスよ。神崎君と会ったんで世間話してただけっス」
「その世間話を聞かせて❤︎」
「(マジでしつこい。)」
「ねぇ御影く…」
「悪いスけど、これから行く所があるんス。だから冴島サンと話しは出来ないっス」
そう言って琉生は去って行った。
「何なのあいつ…ムカつく!」
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