第40章 Periculo-性格の不一致-
『でもそいつが母様に剣を向けた!母様を傷つけようとした!絶対に許さない…!』
『そうだな、悪意を乗せた剣を人に向けるのは良くないな。二人は私を守ろうとしてくれたんだな。ありがとう』
目に口付けする母様は優しく微笑み、“彼”──蒼生の頭を撫でた。
『俺だってソイツを許した覚えはねえ。梨央を泣かせた。母さん言っただろ。“妹を泣かせたり傷付ける奴はぶっ飛ばせ”って。俺がソイツをぶっ飛ばす』
『ほぉ…貴様の宝物は随分と威勢が良いな。貴様に似て気が短いのが難点だが』
『母様を馬鹿にするな!』
『──お前にこの里は落せない』
母様の放った言葉に男は嗤う。
『いずれこの里は落ちる。』
男は不気味に笑んだまま、言い返す。
『お前は私達を見縊っているようだな。この里を落とす?ふっ…寝言は寝て言え』
『………………』
『この里には三大貴族がいる。攻撃力に長けた伏見家、防御力に長けた夕凪家、その二つの力に長けた仁科家。お前はそんな私達からどうやってこの里を落とすつもりだ?』
母様は勝ち誇った笑みを見せる。
『簡単だ』
『何…?』
『貴様達を屈服させるような“餌”を使えば良い』
『どういう意味だ』
母様の問いには答えず、男は賤しい笑みを口許に湛えたままだ。そんな男を私は睨みつけた。
『そろそろお引き取り願おう。此処はお前が足を踏み入れて良い場所じゃない。二度と私達の前に姿を見せるな』
『今日はこのまま大人しく帰ろう。だが…この里はいずれ必ず、手に入れる』
去り際、冷たい瞳に睨まれ、私はビクリと体を震わせた。だけど母様は険しい表情を浮かべたまま、男を鋭い眼光で睨んでいる。
『貴様達は良き母の元に生まれたな』
最後に言い残し、男は去って行った。
『心配かけてすまなかったな二人共。それと怖い思いもさせた』
『母さん、今の話…』
『奴の言葉は気にするな。この里は私達が守る。奴の術中に落ちてたまるか』
母様は勝気に笑み、それを見た私達もホッと胸を撫で下ろす。
『さあ、戻ろう』
だから 信じてたんだ
『何もない、幸せな日常へ──……』
きっと 悪夢なんてないんだって
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