第3章 書類配りI
「えー…めちゃくちゃ不機嫌じゃないっスか〜」
「近寄るな臭いが移る」
「酷いなァー。これでも隅々まで念入りに消したんスよ。でもシャワーの浴び直しか…」
「今度はどんな子を落としやがった」
「ちょ…マジで目が怖い!」
「キミの趣味に口出しする権利はない。だからいつも言ってるだろ。“私情後”は臭いを完璧に消して誰にも気付かれないように振る舞えと」
「そーいや…今日の子はやけに積極的…」
「あ?」
「な、何でもないっス!!」
「とりあえず臭いを消せ」
「しゃーない。帰ってもう一回シャワー浴びよ」
琉生は面倒くさそうに髪をガシガシと掻く。
「孕ませたら殺すからな」
「その辺は大丈夫っスよ。ヤる前は必ずピル飲ませてるんで。つーか、孕ませる気ない」
「それ…相手には絶対言うなよ。怒りを買って往復ビンタだぞ。それか刺される」
「心配性っスね〜」
「(彼もある意味、“これ”が悪癖かもな…)」
呑気に笑う琉生に溜息を吐いた。
「美男子なのに何で性格はゲスいんだろうな。ハァ…ほんと愚図。」
「本人目の前にして貶すのヤメテ!?」
「相手が本気でキミに好意を抱いたらどうすんだよ。それこそ面倒だろ」
「好意を持たれても関係ないっスよ。本気で好きになられても期待には答えられないっスから諦めてもらうっス」
「うちの中でキミが一番恋人というものにこだわってそうだが…」
「はは、やだなー。恋人なんて死んでもいらない」
顔は笑っているのに、その声には“軽蔑”と“嫌悪”と“拒絶”が含まれていた。
「そこまで否定するのは珍しいな」
「だって恋とか愛なんて気持ち悪いだけっしょ?」
「(それをサラリと笑顔で言うのか…)」
「私情中も“好き”とか“愛してる”なんて言われるんスけど…正直イラッとするんスよね」
「……………」
「ほんと…くだらない」
「(琉生は過去の出来事から『愛』を受け入れられなくなった。それが今の彼に繋がっているのだろう…)」
「だからオレは本気で誰かを好きになったりしない。愛なんて言葉には惑わされない。オレにとって『それ』は…呪いの言葉だから」
琉生は悲しそうに目を伏せる。
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