第37章 Sors-定められた運命-
「“何か過去に疑問があるのかい”」
「…つ…」
「月島さん…!」
「おかしいな、僕との思い出が信じられないのかい。君の両親から守って育てたのは誰だ?織姫。チャド、君にそのペンダントをあげたのは誰だ?どちらも僕だ、そうだろう?その僕に────」
「月島ァ!!あとから過去を捩じ込むな!使いものにならなくなるぞ!今までそれで何人壊したと思ってんだ!」
「…あ…ああ…」
偽の記憶を植え付けられたことで二人は壊れ始め、体が小刻みに震え出す。
「へ…へんだなあたし…あたしが今生きてるのは月島さんのおかげなのに…なんで…」
「…ちっ」
銀城は舌打ちをする。
「───本当に?」
「「!!」」
優しい声が二人の耳に届く。
織姫と茶渡は梨央を見上げる。
「織姫ちゃん。キミの両親から守って育てたのは本当に月島なの?」
「そ…れは…」
「茶渡くん。キミにそのペンダントをあげたのは本当に月島なの?」
「……………」
「気付いて二人共。キミ達の過去に“月島秀九郎”という人物は最初から存在しない。元から“いなかった”んだ。今までずっとキミ達の思い出を守り続けているのは誰なのか、ちゃんと思い出してごらん」
“織姫”
「お兄…ちゃん…」
“ヤストラ”
「じいちゃん…」
梨央の言葉がキッカケで二人の脳裏にそれぞれの大切な人の面影が浮かび上がる。
梨央はニコリと微笑む。
「そうだよ。キミ達が愛しているのは…キミ達を愛してくれたのは月島じゃない。ずっとキミ達の傍でキミ達を見守ってくれたのは、たった一人の、大事な家族じゃないか」
「「っ………!!」」
織姫と茶渡は涙を流す。
タンッ
「!」
「いやァ良かった良かった」
「おい…お前ちょっとズルくねえか…」
月島の能力から解放され、二人は気絶した。
倒れないように浦原が織姫を、一心が茶渡を請け負う。
「迂闊に揺さぶりをかけて頂いたおかげで簡単に意識をトばすことができました。いや…決め手は梨央さんの言葉っスね」
浦原は唇の端を上げ、梨央を見上げる。
「有難うございます」
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