第3章 書類配りI
「?」
それを見て砕蜂は不思議そうな顔をする。
「“約束の儀式”みたいなものだ。現世では約束を交わす時、必ず守るという意味を込めてお互いの小指を絡ませるんだよ。ほら、小指を出して」
言われるがままに小指を差し出し、流歌の小指と絡める。
「梨央様、少しお痩せになられました…?」
「総隊長にも言われた。彼処は退屈な場所だったからね。ご飯も美味しくなかったよ」
「体調を崩さぬようにしてください」
「ん、気をつける」
「(こんなにも細くなられて…)」
「私は私の大切なものを奪わせない。その為に私は強くならなければいけない」
「……………」
「でも無茶することもあるだろう。その時はキミの力が必要になる。不甲斐ないかも知れないが力を貸してくれ」
「もちろんです!」
嬉しそうに返事をして砕蜂は頷いた。
「それと…副隊長を許してあげて」
「!」
「罰も取り消しでいい」
「ですが…あの男は梨央様を侮辱したのですよ。それだけじゃありません。汚れた手で貴女様に触れた。それなのに…許すと云うのですか?あの男の犯した失態を」
「私も気が長い方じゃないからさっきの彼らの行動には危なく手が出そうになったが…今の状況じゃ仕方ない」
「貴女様を罵った奴等を全員、謹慎にしようかと考えていたのです」
「そこまで私を気遣ってくれて嬉しいよ。…彼らが冴島桃香の本性を知らないうちは夢を視させてやろう。どうせ夢から冷めれば嫌でも現実を受け入れることになる」
「それまでは見逃すのですか?」
「そう」
「蒼生様も賛同したのですか?」
「最初は猛反対だったよ。
話せば分かってくれた」
「そうでしたか」
「じゃあよろしく頼むよ」
流歌は手を振り執務室を出た。
「…大切なものを奪わせない為に強くなる、か…。ふっ…実にあの方らしい。昔と変わらず…ご自分を犠牲にして戦っておられる。そして…いつまでもお優しいお方だ」
砕蜂は扉に向かって歩き出す。
「あの方を敵に回したことを存分に後悔するが良い冴島桃香。地獄に落とされるのは貴様の方だ」
嘲笑う様に言葉を吐き捨て、執務室を出て行った。
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