第34章 Carissimi-愛しい人-
「ですから隊長が責任を感じることはないんです。この症状のおかげで死に恐怖するこもなく、迷わず人の命を救うことができるんですから」
「それでもお前に傷を負わせたことに変わりはねえ。罪滅ぼしと言えば聞こえは良いかもしれねえけど…俺にできることがあれば何でも言ってくれ」
「本当に大丈夫ですよ。あんなの全然気にしてません。だから…自分を追い詰めるのはやめてください」
「それじゃ俺の気が済まない」
「食い下がりますね」
「お前だって似たようなもんじゃねーか。それに…たとえお前が許しても俺が自分のしたことを許せない」
本当に優しい人
桃ちゃんはこんな素敵な人に
護られてるんだな
「私は…誰かに許される立場じゃない」
「!」
「(あれは…誰の言葉だったっけ。)」
『お前が幸せになることを誰が許す?誰も許すはずないだろう。だってお前は…守る為に罪を犯し、護る為に───となったんだからなァ』
「(あぁ、思い出した。)」
賤しい笑い声。
「(常に頭の隅に置いておけ。私の罪を…犯した過ちを…忘れるな。)」
“望み”を改めて再認識し、頭にしっかりと刻み込んだ。
「この話はもう終わりにしましょう」
両手を合わせて無理やり会話を終わらせようとした。
「血濡れのお前をこの手で抱いた時…」
「!」
「俺は…お前の死が脳裏を過った」
その時の事を思い出しているのか、日番谷は辛そうに顔を歪ませる。
「俺に触れた指先が氷のように冷たくて、お前の青い眼も色を失っていた。お前が死ぬかも知れないって思ったら…頭ン中が真っ赤になって…気付いたら我を忘れて暴走してた」
「……………」
「怖かったんだ…お前が俺の前からいなくなることが。もう二度と…お前に会えないかも知れない…そう思うと…怖かった」
「隊長……」
日番谷は眉を下げたまま、悲しさと辛さが混じったような表情を浮かべ、そして真っ直ぐに梨央を見つめる。
「仁科」
「はい」
静かに名前が呼ばれ、不思議そうな顔をすれば、日番谷はふと表情を和らげ、優しさを含んだ声で言った。
「生きててくれてありがとう」
「!!」
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