第34章 Carissimi-愛しい人-
梨央は目を見開き、言葉を失った。そんな彼女を日番谷は可笑しそうに笑い、梨央は混乱した。
「え…な、何でお礼を…」
「ずっと伝えたかった」
「……………」
「俺はお前が生きててくれて嬉しい」
“だからありがとう”
日番谷はそう言って微笑んだ。
「(本当に…ズルい。)」
すぐ泣きそうになるのは本来の性格のせいか、それとも彼がそうさせているのかは解らないが、少なくとも梨央の目には涙が浮かぶ。
唇をキュッと固く結び、泣くのを我慢している梨央を見た日番谷は愛おしげに笑み、ゆっくりと梨央の元に歩み寄る。
「泣くのを我慢するのは良くねえな」
「泣き虫だって思われたくないんです」
「(こいつが素直に涙を流すにはどうしたらいいか…)」
ふるふると震え、潤んだ瞳で泣くのを我慢している梨央を見て何かを思いついた日番谷は腕を伸ばし、梨央の頭にそっと手を乗せ、ゆっくりと撫でた。
「!」
「泣くの我慢してると辛いだろ。今は俺しか見てないから。な?」
「ふっ…う、ぅぅ…」
日番谷の言葉で我慢が切れたのか、青い瞳からポロポロと涙が溢れ落ちる。
「た、隊長がわ、悪いんです…っ。生きててくれてありがとうなんて…そんな嬉しい言葉…言うから…っ」
「本当にそう思ったからな」
「っ…………」
じわり。また目に涙が溜まる。それを指先で優しく拭う日番谷。
「ほら、あんまり泣き過ぎると目が腫れるぞ。そろそろ泣き止んでくれ」
困ったように笑う日番谷。
「仁科」
「はい…」
「お前にとっての幸せってなんだ」
「え?」
唐突に質問され、思わず聞き返す。
「(私にとっての幸せ…)」
そんなのは…ない
遥か昔に壊れてしまった
そう…全てを失ったあの日に───。
「…分かりません。隊長にとっての幸せって何ですか?」
涙が止まり、逆に今度は同じ質問を返す。
「俺にとっての幸せは…」
「……………」
「お前が笑っていてくれることだ」
「え?」
まさかの返答にキョトンとした。
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