第34章 Carissimi-愛しい人-
「話だけ済ませたらすぐに帰ります」
悲しそうに笑って日番谷を見る。
「私のせいで隊長を傷付けてしまって申し訳ありませんでした」
「違う…」
「いいえ違いません。全部私が悪いんです。私の軽率な判断があなたに罪悪感を負わせてしまった」
「本当にお前のせいじゃないんだ…」
「でも隊長にそんな顔をさせてるのは私でしょう?」
日番谷は目を合わせず、表情を固くさせている。
「私があんな目に遭ったからいけないんです」
梨央は自分自身を責めた。
「あなたを…悲しませて泣かせた」
「!」
伸ばして触れた手はとても冷たかった。涙する彼の顔はとても悲しそうだった。自分の身を犠牲にして飛び込んだ結果だ。彼を傷付けるとわかっていた。それでも犠牲を払った。
「だから…隊長は何も悪くありません」
そこで漸く日番谷は目を合わせる。
ああ やっぱり
この人の瞳の色
すごく綺麗だ
隊長は前にこの瞳のせいで
気味悪がられたと言っていた
その人達を馬鹿だと思った
彼の瞳のどこが気味悪いのだろうか
私は好きだ
彼の翡翠の瞳は
とても綺麗で
それでいて優しい─────。
「傷…痛むか?」
日番谷はやっぱり気にしていた。
鏡花水月の能力で洗脳されていた日番谷が藍染だと錯覚したまま、梨央を誤って刀で刺してしまった。
あれ以来、日番谷は罪悪感を感じて梨央に合わせる顔がないとずっと彼女を避け続けていた。
「もう平気です。そもそもあれくらいで死ぬような体はしてません。それに傷も癒えてます。だから痛みもないです」
「…すまなかった」
日番谷は頭を下げた。
「どうして隊長が謝るんです。あなたは何も悪くない。ですから顔を上げてください」
「俺はこの手で…お前を刺した」
顔を上げた日番谷は掌を見つめる。
「私が身代わりにならなければ桃ちゃんは死んでいた。彼女が死ねばたくさんの人が悲しむ。そんな未来を…迎えたくなかったんです」
でも…と言葉を付け足す。
「私が犠牲になったことで桃ちゃんの命は助かった。彼女は生きて未来を進める。結果的に何も問題はありません」
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