第3章 書類配りI
「それよりキミはあの噂を信じてる?」
「噂ですか?」
「あの事件だよ」
「何をおっしゃいますか!!私が梨央様をお疑いになるなど絶対にあり得ません!!」
砕蜂は全力で否定する。
「そもそも私の知っている梨央様は誰よりも強くて優しさに満ち溢れたお方です。貴女様があの女を襲って刺し殺そうとしたなどという妄言を信じるほど砕蜂は莫迦では御座いません」
「(あぁ、本当に見違えた。)」
昔よりも逞しくなった
もう心配はいらないようだ
「キミが信じてくれて嬉しいよ。さて砕蜂、書類に目を通したら判を押してくれ」
「『特別隊首会』?」
受け取った書類に記載された内容に疑問を浮かべる。
「あの梨央様…これは一体?」
「その名の通りだよ。特別な時にだけ開かれる隊首会だ。私も詳しくは聞いてないけど近いうちに開かれるらしい」
「承知致しました。少しお待ちを」
書類に判を押す砕蜂を待つ間、流歌はポケットから青い宝石が埋め込まれた指輪を取り出して眺める。
「その指輪、いつも付けておられましたね」
「とても大事な物なんだ」
「蒼生様からの贈り物ですか?」
「いや…この指輪は母の形見なんだ」
「!お二人のお母様の…?」
「この紋章はね、仁科家の証なんだよ。代々母親から娘に贈られるんだ。少し大きいのは先代がサイズを間違えて作ったからなんだって」
「ではその指輪もお母様から?」
「うん。命と同じくらい大事な指輪。親指に嵌めるのが丁度良いんだ」
「よくお似合いです」
「ありがとう。そういえば初めてキミと出会った時もそう言ってくれたな」
「そ、そうでしたか?」
「キミとの付き合いも長くなった。あれから随分と月日が流れたんだな」
「梨央様は日に日にお美しくなられてます」
「はは、ありがとう」
その笑顔に砕蜂は頬を赤らめた。
「どうかした?」
「い、いえ!」
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