第34章 Carissimi-愛しい人-
「嫌われるのには慣れてるはずなんだけどな…」
どうやら“心の傷”は
癒えていないようだ
「あ!りったん!」
「やちる先輩」
「どうしたの?そんな悲しい顔して」
隊舎に帰る途中の道で愛嬌に満ちたやちるに会った。
彼女はテトテトと駆け寄って来ると悲しい表情をしている梨央に気付いて心配そうな顔をした。
「あっくんに意地悪されたの?」
「いいえ。何でもないんです」
「でもなんか元気ないよ?」
「少し疲れてるのかもしれません」
誤魔化す様に笑って見せる。
「それより聞いてくださいやちる先輩。
前に植えた花が咲いたんです!」
「本当!?綺麗に咲いた?」
「はい。とても綺麗に咲いてくれました」
「やったね!今度見に行ってもいい?」
「いつでもどうぞ」
嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねるやちるに笑みが溢れる。
「あのね…りったん…」
「!」
やちるは元気を無くした様に悲しい顔を浮かべて顔を俯かせた。
「どうしました?」
「あっくんとりったんのお母さんって…」
「母…?」
やちるから母親の話題が出た瞬間、梨央は顔を強張らせた。
「りったん…?」
「あの…母が…何です?」
「……………。
んーん!やっぱり何でもない!」
にぱっと笑って話を終わらせた。
「…そうですか」
「あ!あたし剣ちゃんのトコ行くねー!
ばいばい、りったん!」
「はい」
片手を挙げて走り去って行ったやちる。
それを見送った梨央は踵を返して歩き始めた。
「………………」
タタタッと走るやちるの表情は悲しみに染まっている。
「聞けるわけないよね…」
思い出すのは先日の蒼生との会話のやりとりだった。
『やちる』
『うん?』
『俺達の母親はな…』
「(だって、まさか…)」
眉間に皺を寄せて泣きそうになるのをグッと堪える。
「(あっくんとりったんの母親が…)」
「(“殺された”────なんて……。)」
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