第34章 Carissimi-愛しい人-
「(日番谷隊長に会いたいな…)」
尋問から解放されて隊舎に戻ろうとした時、何故か無性に日番谷の顔が見たくなって十番隊舎に向かったが…
「ごめんなさいね。隊長は今いないのよ」
ドアを少し開けたまま申し訳なさそうに謝る乱菊に慌てて両手を振る。
「あ、いないなら大丈夫です!」
「言伝なら預かるわよ」
「大した用じゃないので…」
「あーなるほどね」
「?」
「会いたくなっちゃった?」
「っ……!!///」
ニヤリと笑った乱菊の言葉に思わず頬を染める。
「そ、そんなんじゃないです!」
「ふふ、あんたは嘘が下手ね」
「乱菊さん…」
「何?」
「…気のせいかもしれませんが」
胸の辺りを手でキュッと掴む。
「隊長に…避けられてるような気がするんです」
「!」
「“あれ以来”、会わないんです…」
悲しい顔をすると乱菊も悲しそうに目を伏せる。
「きっと彼は…私を刺してしまったことに罪悪感を感じているのではないでしょうか」
「だからあんたを避けてるって思ってるの…?」
「はい…あの人は優しい人ですから」
あの傷はもう癒えている
けど…隊長の負った傷は癒えていないんだろう
私のせいで…あの人を傷付けてしまった
「私…嫌われちゃったんですかね…」
泣きそうになるのを堪えて笑う。
「梨央…」
「ありがとうございました。
仕事が残ってるので戻ります」
会釈をして乱菊の元を立ち去る。
少し寂しそうな梨央の背中を見送ってからドアを閉めた。
「…………」
ドアノブに手を掛けたまま、乱菊は視線を移す。
「隊長…いいんですか?」
机に向かって仕事をしていた日番谷は手を止めて乱菊を見る。
「何がだ?」
「梨央…すごく悲しそうでしたよ」
「…………」
「あの子…自分のせいで隊長を傷付けたと思い込んでます。このままじゃ…お互いに気まずくなるだけですよ」
諭す様な乱菊の言葉に日番谷は眉を下げ、目の前の書類を見つめる。
「きっと隊長に会いたがってます」
「あぁ…俺も会いたいな」
その表情はどこか切なげだった。
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