第33章 Scelus-罪深き少女-
「“触れて欲しくない思い出”を無理に聞き出すのは頂けないな。それを引き金にトチ狂った行動をしてキミを殺したらどうすんのさ」
怖い顔で本気とも捉えられる言葉を吐き捨てる梨央だが、殺伐とした空気を消すかのようにニコリと笑んだ。
「冗談だけどね」
「(一瞬感じた殺気は冗談ではないだろうな…)」
「大切な人を失う怖さを知ったから私は強くなろうと決めた。護りたい命があるから弱いままじゃいけないと思ったんだ」
「だが護れない命もあるだろう」
「…そうだね」
「助けたいと思っても救えない。護りたいと思っても護れない。それを貴様は百年前のあの日、死ぬほど思い知らされた筈だ。それでも無駄な命を護るというのか」
「護るよ」
真っ直ぐな眼で答えた。
「そりゃ救えない命もある。私は超人じゃないからね。世界に存在する全人類の命を全て護るなんて無理ゲーだよ。でもさ…私が護ることで救える命はあるはずだろ」
「だから貴様は自らの命を犠牲にして戦うのか」
「そうだ」
「救えない命に手を伸ばしたところで、それこそ命の無駄遣いだ。人には寿命がある。その寿命を迎えれば嫌でも人は死ぬ。今日死のうが明日死のうが同じ事だ」
「だから…救うだけ無駄だって言うの?」
「命は早いか遅いかの違いだけだ」
「キミの言っていることは理解できないな」
「…死ぬと知っていながら尚も生に縋ろうとするのは“死に損ない”のする事だ」
「死に損ないで結構」
「…何?」
「死ぬと解っていながらも生に縋りつくことの何が悪い?人は死にたくないから生に手を伸ばすものだ。その先にある大切なものを護る為にな」
男は眉間を寄せて梨央を見る。
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