第33章 Scelus-罪深き少女-
「それに私が護ることで助かる命はあるかもしれないでしょ?ならその命を見捨てることはしない。例えそれで死んだとしても私は誰も恨まないさ」
「(自己犠牲を厭わぬ少女か…。
似ているな、“彼女”と…)」
男の脳裏に浮かんだのは一人の女性だった。
『死ぬのは怖くない。私の大事な宝物を失うのに比べれば死など軽いものだ。あの子達がいる世界はまるで楽園のようだよ』
『どんな残酷な運命でもあの子達の笑顔を見ると全部どうでもよくなるんだ。私は世界一の幸せ者だな。あの子達の存在は私を強くさせる』
『だからこそ…あの子達を傷付ける奴は死を以て償ってもらう。二人が笑って過ごせる世界を護れるなら私は人殺しだって請け負ってやるさ』
『あの子達は天から授かった宝物だからな。命に代えても…私があの子達を護る。それがあの子達の母親としての義務だ』
記憶の中の女性は妖艶に微笑んだ。
「…貴様は無駄死にするタイプだ」
「褒め言葉として受け取っておく」
「それと…」
「まだあるの?」
「貴様は遥か遠い未来で必ず罰を受けると言ったな」
「ああ、そんなことも言ったね」
「あれはどういう意味だ」
「教えてあげない」
嫌味を含めた声で笑う。
「さて…そろそろ帰るよ」
椅子から立ち上がり、男の横を通り過ぎる。
「最後に一つだけ」
扉の前で止まり、ドアノブに手を掛ける寸前で監視役の男に言葉を投げかける。
「私は自分がこの世界に存在するべきじゃないってことくらい理解してる。それでもまだ…死ぬわけにはいかない。『望み』を叶えるまでは───……」
「………………」
「また会おうね、監視役さん」
意味深な言葉を残し、首だけを後ろに回した梨央は監視役の男の背中に向けて張り付けた笑みを浮かべ、扉を押し開けて出て行った。
next…