第33章 Scelus-罪深き少女-
「すげぇ反省してたな。あの人は俺達が傷付くこととか泣くところとか見るのが嫌なんだよ。だからあの時も最後まで俺達を抱きしめて放してくんなかった」
やちるは嬉しそうに母親の話をする蒼生を見て口許が緩んだ。
それ以前に蒼生の口から家族の話を聞けるとは思わなかったのだ。
だからこそ嬉しかった。
自分に心を開いてくれていることに。
「あっくんとりったんは愛されてたんだね!」
「そうだな…あの人は俺達を今も愛してくれてるし、俺達もあの人を今でも愛してるよ」
その声色に悲しい音が含んでいることにやちるは気付かない。
「二人のお母さんはどんな人?」
「親バカ」
「それはさっき聞いた!」
「すげぇ強い」
「そうなんだ!」
「母さんと喧嘩なんてしたら確実に負ける」
「そんなに強いんだ」
「なんたって“怪物”だからな」
「あたしも会ってみたいな!」
やちるの言葉に蒼生は表情を曇らせた。
「…俺も会いてえな」
「?会いたいなら会いに行けば?」
「会えないから会いたいんだよ」
「?」
「あの人のいない世界を俺達は生きてんだな…」
うわ言のように呟くと空を見上げた。
「あっくん…?」
「やちる」
「うん?」
「俺達の母親はな…」
悲しい顔をやちるに向ける。
◇◆◇
その頃、談話室のソファーに寝そべり仮眠を取っていた梨央は何者かの霊圧を感じて目を覚ます。
「不法侵入で訴えられたくなければ今スグ出て行け」
「申し訳ありません」
気配を消して現れた男は黒装束を纏っている。
「(完全に霊圧を消した筈だが…)」
男を他所に梨央は上体を起こす。
「誰の許可を得て立ち入っている。
仮眠を妨害した罪は重いぞ」
貴重な睡眠を邪魔されて梨央は機嫌が悪い。
鋭い眼光で睨み付ければ、男は身を竦ませる。
「用件は何だ」
「…零番隊隊長、仁科梨央様」
男は震える声で告げる。
「中央四十六室より強制捕縛命令が通告されております」
「!」
「手荒な真似はしたくないので…どうか素直に従って下さい」
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