第33章 Scelus-罪深き少女-
「やる側は良いけどよ、やられる側は良い気分じゃねえよ。やっぱこの作戦は心臓に悪いしボツだな」
「あっくんも…同じ作戦に騙されたことあるの?」
「子供の頃だけどな」
「あっくんの子供の頃?」
「うちの母親はなんつーか…世間で云う“親バカ”ってやつで…どんなに仕事が忙しくても休憩の合間を縫って俺達に会いに来て遊びに付き合ってくれるんだよ」
蒼生は懐かしむ様に語り始める。
「仕事が大変な上に俺達の遊びに付き合うって…本当に怪物並みの身体の持ち主で…鬼事はもちろん、どんな遊びも真剣に取り組んでくれた。そして俺達を抱きしめてからまた仕事に戻って行くんだ」
「(あっくん嬉しそう…)」
「あの人は俺達が喜ぶことなら何でもしたよ。鬼事でも絵描きでも歌を歌って聴かせてくれたこともある。俺達が笑うとあの人は嬉しそうに笑うんだ。寝る前には…絵本を読み聞かせてくれたっけな…」
「!」
ふと蒼生の目が悲しみに染まる。
「仕事が休みの日に鬼事をしたんだ」
だがそれは一瞬だけですぐに悲しい眼は消える。
「鬼役の母さんが逃げる俺達を追いかけて“捕まらないように手加減してくれた”。俺達は鬼に見つからないように上手く隠れたんだが…母さんにはきっと俺達がどこに隠れてるのか知ってたんだろうな」
「………………」
「けど急に仕事が入って母さんが俺達を呼ぶんだが、中々俺達が姿を見せないことに困ったらしい。そこで母さんは“あの作戦”を使ったんだ」
「…それでどうしたの?」
「突然苦しそうに顔を歪ませるもんだから俺達は慌てたよ。特に梨央なんて母さんの死にそうな姿を見て大泣きだ。俺もそんな妹を泣き止ませるのに必死でどうしていいか分からなかった」
「それはりったんも泣いちゃうね…」
「流石の母さんも梨央のマジ泣きに焦ったんだろうな。すぐに嘘だって笑って見せてたよ。けど当然俺達は怒った。別に騙したことに怒ったんじゃない。本当に苦しそうな顔だったから、もしかしたら死ぬんじゃないかって本気で心配したんだ」
蒼生は今でもその事件を鮮明に覚えてると云う。
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