第33章 Scelus-罪深き少女-
「鬼さんこっちだよー!」
やちるの声が楽しそうに弾む。
背を向け走り出すやちるだが…
「?」
追って来てるはずの蒼生の息遣いが聞こえない。
地を蹴る音も声も。
「あっくん…?」
不思議に思ったやちるは走るスピードを緩めて後ろを振り返る。
「!!」
やちるは大きく目を見開いた。
「あっくん…!!」
遠い視線の先に地面に膝をついて崩れ落ちる蒼生が苦しそうに顔を歪ませていた。その表情はいつもの蒼生からは想像できない。今にも死にそうな苦痛の表情だ。
やちるは顔色を変えて方向転換すると慌てて蒼生の傍に駆け寄った。
「どうしたの!?どっか痛いの!?」
「う、ぐ…」
「ねぇあっくん!!大丈夫!?
苦しいの!?痛いの!?」
やちるは動揺して蒼生を心配する。
「や、ちる…」
「あっくん!!しっかりして!!」
蒼生は苦しそうに呼吸をしている。
“助けなきゃ”────。
そう思ったやちるは泣きそうになるのを我慢して隊舎にいる更木に助けを呼びに行こうと踵を返す。
ガッ
「!!」
だがその手は蒼生によって捕まる。
「───捕まえた。」
「…へ?」
何が起きたのか解らず、やちるはキョトンとした。
「ほらな、捕まっただろ」
さっきまで死にそうな顔をしていた蒼生が今ではケロッとしている。苦痛など最初から無かった様に、その表情はいつも通りだ。
「え…な、何?
あっくん…死ぬんじゃないの?」
「勝手に殺すなよ」
「だって苦しそうにしてたよ!」
「あーあれな…嘘だ」
「嘘…?」
「お前を捕まえる演技だよ」
さっきのが全て蒼生が仕組んだ演技だと知ってやちるはホッとしたが、騙されたことに怒ってムッと顔をしかめた。
「ひどいよあっくん!あたしを騙したの!」
「悪かったな」
「むー!」
「そんなに怒るなよ」
「怒るよ!すっごく心配したもん!」
「だから悪かったって」
掴んでいたやちるの手を放して立ち上がる。
「心臓に悪いか?」
「悪いよ!焦ったもん!」
「だよな…やっぱ誰でも怒るよな」
「?」
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