第33章 Scelus-罪深き少女-
「足に加速装置でも付いてんじゃねーのか」
「あっくんは亀さんみたいに遅いね!」
「言ってくれんじゃねえか…」
「またあっくんが鬼ね!」
「まだやんのか…」
「あっくんがあたしを捕まえるまでだよ!」
「…道のりは長そうだな」
「でもあっくんなら大丈夫だよ!」
「!」
「いつかあたしを捕まえられるよ」
「余裕たっぷりだな。
それは俺を挑発してんのか?」
「あっくんは絶対にあたしを捕まえる」
「その理由は?」
「あたしの恩人だから」
「何だそりゃ」
「あっくんがいるからあたしはいるんだよ」
その台詞に蒼生は目を見開いた。
「だからあたしは剣ちゃんと出会えたの」
笑って蒼生を見上げるやちる。
「…そうか」
切なげに目を伏せた蒼生は屈んでやちると視線を合わせる。
「なァ、やちる」
「なぁに?」
「更木隊長をしっかり護ってやれよ」
「!」
「そのためにお前はあの人の傍にいるんだから」
「…あっくん?」
「お前は俺達みたいに後悔だけはするな」
ぽん、と優しくやちるの頭に手を乗せる。
「わかったか?」
「うん!」
やちるは無邪気に笑って返事をした。
それに蒼生も笑い返す。
「じゃあ続きやろ!」
「…………」
次も捕まえるのは困難だろうと思った蒼生はそこで何かに閃く。
「このやり方は好きじゃねーけど…」
「どうしたの?」
「やちる」
「何?」
「次は絶対にお前を捕まえる」
真剣な表情にやちるはにんまりと笑った。
「楽しみにしてるね!」
ダッと走り出す。
そのスピードは本当に足に加速装置が付いてるんじゃないかと思う程の飛行機並みの速さだ。
「………………」
蒼生は小さくなって行くやちるの背中を目で追う。
「仕方ねえな…」
やる気のなさそうな台詞を吐いて再びやちるを追いかけた。
やちるは全力疾走で逃げ続ける。
「鬼さんこっちだよ!」
「わかってるわ!!」
青筋を浮かべてやちるを追う蒼生。
「あっくん早く早くー!」
ぴょんぴょんと飛び跳ね、蒼生の手を逃れる。
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