第32章 エイユウ ト ワカレノヒ
「…わかってる」
「アナタは正しい事をしたんだ。
そんな顔をする理由は何も無い」
その言葉に反応を示さない一護。
「…黒崎サン」
「…なァ浦原さん。藍染は───藍染は本当に───崩玉に拒絶されたのかな」
「どういうこと?」
「親父が話してくれたんだ。崩玉の能力は周囲の“心”を取り込んで具現化する事───だとしたら、もしかして藍染は自ら望んで力を失ったんじゃねえのかな」
「自ら望んで…?」
「俺は藍染と互角に戦えるだけの力を手にしてようやく戦いの中であいつの刀に触れられたんだ。あいつの刀には“孤独”しか無かった」
「…………」
「あいつの刀が生まれた時から飛び抜けていたならあいつはずっと自分と同じ目線で立ってくれる誰かを探してたんじゃねえかな」
一護の話を梨央は黙って聞いている。
「そしてそれが見つからねえと諦めた瞬間からあいつはずっと心のどこかで“ただの死神”になりたいと願ってたんじゃねえのかな…」
「…あの男の心など知りたくもないが…人は誰しも心に孤独を抱えて生きている。キミは優しい人間だからそんな藍染の気持ちが理解できたんだろう」
「梨央…」
「でもあの男が百年前、平子真子達の生きる証を奪った事に変わりはない。奴のせいで彼らは正しく歩むはずだった運命を狂わされ、間違った道を歩むことになった」
「…………」
「キミの言いたいことは判る。私も“ただの死神”になりたいと願ったものだ。だが…藍染が犯した罪は極刑に値する程のものだ。私は許せないんだよ。罪を犯しておきながら何の罰も受けないなんて…そんな馬鹿な話はないだろう?」
梨央は顔をしかめる。
「これが奴が自ら望んだ運命の末路だ」
その眼は冷たかった。
「…く…黒崎くん…?」
「井上…石田…ルキア…茶渡…恋次…」
「みんなで顔合わせるの久しぶりだ〜」
「何だよオマエら…もう起きても大丈夫なのかよ!?」
「貴様こそ何だその…」
「…や…やっぱり黒崎くんだ…髪が長いから…もしかしたら違うんじゃないかと思って…よかった…よかったあ…」
「なんつーカオしてんだよ井上。
まァ確かに俺、頭ボサボサに」
瞬間、一護は倒れた。
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