第3章 書類配りI
「(まずい!!完全にキレてる!!)」
彼女の気の短さは昔から知ってるけど
今ここで正体がバレるのは困る!!
「砕蜂隊長!!書類を届けに来ました!!」
「…わかった」
怒りで強まった霊圧は徐々に弱くなり、落ち着きを取り戻したことで安定した。
そして砕蜂は大前田を睨む。
「どうやら貴様は副官としての責任を甘く見ているようだな。罰として隊舎内を隅々まで清掃しろ」
「えぇ!?」
「もし塵一つ残っておれば命は無いと思え。その時は私が貴様の存在をこの世から葬り去ってやる」
「そ、そんな…!」
「神崎は私と共に来い」
呆然と立ち竦む大前田を無視して流歌は砕蜂の後を追った。
横目で見る大前田の顔はショックを隠しきれず唖然としている。そんな彼に流歌は心の中で囁く。
「(ざまーみろ。)」
◇◆◇
清々しい気分になったまま、執務室に入った瞬間、砕蜂はその場でバッと正座をしてガバッと頭を下げた。
「私の部下が大変失礼な事を致しまして本当に申し訳ありません梨央様…!!」
突然の行動に驚いた流歌だが、正体を明かすわけにはいかず、砕蜂に優しく笑んで演技を続ける。
「頭を上げてください。誰と勘違いしているか分かりませんが僕は神崎流歌です。梨央という方ではありません」
「いいえ!私が貴女様を見間違えるはずはありません!何年、貴女のお傍にいたとお思いですか!零番隊隊長でありながら蒼生様の双子の妹君であられる仁科梨央様です!この砕蜂の目は誤魔化せませんよ…!」
そう語る砕蜂の目は涙ぐんでいた。
「…まさか正体を見破られるとはな」
「!」
「降参だよ」
流歌は観念して両手を短く挙げる。
「百年ぶりの再会だな、砕蜂?」
「梨央様…!」
砕蜂は嬉しそうに笑う。
「会わない間に隊長に昇格していたとは驚いたよ」
「ご無事で何よりです…!」
「あはは、うん、本当にね」
「(あぁ…本当に…梨央様だ…)」
未だ信じられず砕蜂は流歌を見つめる。
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