第3章 書類配りI
ビクッと身体を跳ねつかせる隊士達は恐怖で言葉が出ず、黙り込んでいる。
それもそのはず。
大前田の前には般若のように鬼の形相を浮かべた少女が両腕を組み、仁王立ちでブチ切れているのだから。
「あ、あの…砕蜂隊長…これはその…ただ遊んでいただけで…決して…」
「ほぉーそうか。その者に水を掛けたのも、下衆な言葉でその者を嘲笑い、終いには殴りつけたのも…全て“遊びの範囲”だと…貴様は言うのだな?」
「(全部バレてる!?)」
「どうした。目が泳いでいるぞ。貴様の嘘をこの私が見抜けぬとでも思ったか!!」
「ひっ!?」
その迫力に男は尻もちをついて座り込んだ。
隊士達は知っている───。
彼女を怒らせることは、自分達の命を捨てているようなものだと。
彼女を怒らせたことは、自分達の死を意味しているようなものだと。
それは副官である大前田も例外ではない。
案の定、ゴゴゴッ…と殺気が滲み出ている砕蜂はビキビキと青筋を浮かべたまま、大前田を鋭い眼光でキツく睨みつけている。
そして、ついにブチ切れた───。
「このたわけ者共がっっっ!!!!」
「「「Σっ……!!?」」」
「仕事を放り出して何をしているのかと思えば新人虐めに精を出しているとは良い度胸だな!?そんなに暇を持て余しているなら更に仕事を与えてやる!!それで全員“出来ませんでした”とは言わせぬ!!そんな言い訳は通用しないと思えっ!!!」
「そ、そんな…」
「わかったら席に戻って仕事をしろ!!!」
彼女の気迫に恐れをなした隊士達は大慌てで自分達の席に戻り、一心不乱に筆を動かす。
「いつまでその方…その者の近くにいる。貴様のようなクズが気安く触れるな」
「クズって…隊長!コイツは冴島を刺したイカれ野郎じゃないスか!そんな奴を簡単にうちの隊舎に入れて誰かを刺したらどうするんスか!!冗談じゃないですよ!!」
ピクッ
大前田の言葉に砕蜂の眉が跳ね上がる。
「“イカれ野郎”…だと?」
ザワッ
「!」
「貴様…なんて無礼な事を…」
砕蜂の眼光がギラリと鋭く光った。
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