第32章 エイユウ ト ワカレノヒ
彼は本当に黒崎一護なのか?
何も感じない
いや
“何も感じない”というよりは
“霊圧を全く感じない”
「…黒崎一護、本当に君は黒崎一護なのか?」
「…どういう意味だ?」
「本当に黒崎一護なら落胆した。今の君からは霊圧を全く感じない。霊圧を抑えていたとしても全く感じない事はあり得ない。君は進化に失敗した。私の与えた最後の機会を取り零したのだ。
───残念だ、黒崎「藍染」
藍染の言葉を遮り、一護は言う。
「場所を移そうぜ。
空座町では俺は戦いたくねえ」
「…無意味な提案だな。それは“私と戦う事のできる力を持つ者のみが”口にできる言葉だ。案ずる事は無い。空座町が破壊される迄も無く君は───」
言い終える前に藍染の顔面を掴んで一護はその場から遠く離れて行ってしまった。梨央も二人の後を追う。
◇◆◇
現地に到着する頃には既に二人の戦いは終盤を迎える寸前だった。
「見せてやるよ、最後の月牙天衝だ」
その姿を見て直感した。
「“最後の月牙天衝”ってのは俺自身が月牙になる事だ」
ああ キミは選んだのだね
自分の運命に従うんだね
その技を使えば
キミは死神の力を失い
二度と死神には戻れない
それでも全てを受け入れた
「…やっぱり親子だなぁ」
彼は“あの人と同じ道”を選んだ
本当に似てる
だからこそ悲しいのだ
彼はもう
“戦いに生きる戦士”として
刀を振ることはない
≪ピィーチチッ≫
「!」
鳥の囀りが空から聴こえた。
その鳥は梨央の顔の前で器用にバランスを取って留まる。
「やあ、久しぶりだね───ウィズ」
ニコッと微笑めば、綺麗な空色の躰と羽を持つウィズは梨央の肩に止まった。
「見てごらんウィズ。
今から彼が世界を救うよ」
一護に視線を向ける。
「ルキアと出会うまでは霊が見えるだけの普通の日常を過ごしてたのに…今じゃ尸魂界にとって無くてはならない存在だ」
本当に不思議だな
運命ってヤツは
「キミは英雄だよ。黒崎一護くん」
柔らかな笑みで微笑んだ。
それは“あの世界”の彼女だった。
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